「エスノグラフィの心がけとノウハウ」
株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
営業・開発推進事業部 マネージャー 牛堂雅文
エスノグラフィ(手法としてはホームビジット調査)は非常に気づきの多い調査手法ですが、実施すれば欲しい情報が無限に、確実に見つかるわけでもありません。では、どうやって発見につなげるべきでしょうか。
(ここでは学術ではなく、ビジネスでのマーケティング・リサーチにおけるエスノグラフィについて述べます。)
心がけ
「名探偵になったつもりで、ヒントを見つけに行く」というスタンスが大事です。名探偵であれば、わずかな違和感から重大なことに気が付きます。自身がそういった探偵になった、それこそ「インサイト探偵」にでもなったと考えて、エスノグラフィに挑んで下さい。「絶対に何かを見つける」という心がまえも案外重要です。
仮説を作るべきか?
「事前に仮説を作るべき」という考え方と、「先入観なしで観察すべき」という対立する真逆の考え方があります。どちらが正しいのでしょうか?
学術的なアプローチでは後者のスタンスになると思われますが、ビジネスで実施する場合、何度も訪問はできませんし、時間の制約があることから、前者の考え方:仮説をベースにした方が良いと考えています。
例えば、「この製品のユーザーは、こういった使い方をしており、ここに不満があるはずだ」…といった仮説です。ただし仮説に固執する必要はありません。「仮説という基準」があるから、仮説からズレた場合にすぐに気が付くことができます。そのズレに気が付くために仮説を作ることをお勧めしています。
事前に決めること
訪問前に決めておき、事前に対象者にお伝えするなどした方が良い点があります。
1)何を再現してもらうか?
2)どの部屋、どの場所を見せてもらうか?
3)同居者は退席してもらうべきか?
4)現地までの交通手段
事前に決めずに現地で観察すること
逆に、事前に決めてもあまり意味はなく、現地で感覚を研ぎ澄ます方が良い点もあります。
5)環境の把握(街の様子)
6)住まいの特徴、自宅にあるものからのヒント
7)五感からの情報
1)何を再現してもらうか
洗濯をして頂く、掃除をして頂くなどの「再現してもらう作業」は事前に決めて下さい。ただし、時間が限られますので、全行程ではなく、大事な部分以外は省略するなど現実的な方法を検討してください。また、ご自宅などスペースが限られた場所では、対象者とカメラで撮影する人の位置が優先となりますので、ご注意ください。
2)どの部屋、どの場所を見せてもらうか?
アメリカなど海外では「ルームツアー」といって各部屋を案内する文化があるようです。しかし、日本では「見せて良い部屋、見せたくない部屋」といった考え方をしますので、事前の依頼は必須と言えます。課題に関係すると思われる場所を見せてもらえるよう事前に依頼します。また、課題にもよりますが、置き場所、収納場所も見ておく価値があります。
3)同居者は退席してもらうべきか?
センシティブな話題であれば、ご家族には外出や、別室にいて頂いて本人だけのご参加が望ましいと言えます。また、個人情報保護や承諾の面でも、あまり同席者は多くない方が良いと思われます。ただ、本人だけで完結しないものであれば、違う視点での情報を与えてくれる同席者はありがたい存在となりますので、時間が許す場合は同席頂く方法もあります。また、小さいお子さんは同席となりがちですので、その前提で考えてください。
4)現地までの交通手段
実務的な視点として、駅からご自宅などにどうやって向かうかを決めておかないと、集合時間や、到着時間が読めません。徒歩か、タクシーかなど決めておきます。海外ではミニバンなどを借りきって、関係者全員が同じ車で移動する方法もメジャーです。(日本では駐車場所の問題がありますのでご注意ください。)
5)環境の把握
駅からご自宅までの移動時はヒントの山になっています。駅前で買い物ができそうか、古くからの住宅街なのか、新興住宅地なのか。また、交通手段も車中心なのか、自転車が多いのか、徒歩の方が多いのかも観察ポイントです。住民の特徴も見ておきたい点でして、若い世代が多いのか、シニア世代が多いのかなど、気にしておきます。
6)住まいの特徴、自宅にあるものからのヒント
見てすぐにわかる「住まいの特徴」としては、戸建てか集合かといった住居形態があります。そして、大まかな築年数も見た目から推測できます。外構、庭、駐車場など屋外についてもヒントは多く、洗濯ものはどこに干すのか?など少し気にしてください。ただ、じっくり観察する時間はないかもしれません。
ご自宅はヒントの山でして、探偵の本領発揮の場面と言えます。製品を使う場所、置き場所に他に何があるか。どういった動線になるのか。インタビューをする場所などの本棚、壁に飾られたものにもヒントがあります。なにか書籍が置いてあるかもしれません。今では使わなくなったものもヒントになります。
7)五感からの情報
エスノグラフィでないと絶対に得られないのがこの点です。暑い、寒い、西日が差すなどの温度や日射の問題、香り/においなど、外の音が聞こえやすいか、少し汚れているなどのなにかの形跡…そういった現地で五感を使わないと気が付かないような微細な点があります。
この辺りは絶対に得られる情報ではなく、ボーナス/+αと考えて少し気にしておくくらいの位置づけになるかと思います。
最後に
エスノグラフィでは「絶対に○○が得られる」とは言い切れませんが、事前に仮説を作り、仮説でレールを引き、現場ではそこからズレた点を見つけることで、何かは確実に得られると考えて下さい。
「仮説があるから発見できる、そして、仮説からのズレは大歓迎」というスタンスが発見につながります。手間暇のかかる手法となりますので、ぜひ「事前の準備」、「現場での気づき」、どちらも重視してエスノグラフィを行い、より有意義なものとしてください。
▼内容の一部をyoutube動画でもお伝えしています。
よろしければ記事とあわせてご覧ください。
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