Interview対談2

JMA 取締役 今井 和人 × JMA OB 株式会社インサイト・ファクトリー代表取締役 砂盛 文孝JMAの50周年事業として6回にわたって、様々な業界の方との対談を行う第2弾。今回は、業界も職種も異なるメーカーから弊社に入社し、その後、クライアント側となる消費財メーカーに移り、現在はマーケティング会社を立ち上げている砂盛文孝さんにお話をお聞きしました。対談相手は、砂盛さんが弊社に在籍当時、ともに仕事をしていた今井和人。現在では飲み友達だという2人にとっても、改めてマーケティングリサーチについて深く語り合う機会となったようです。

出席者:砂盛文孝さん、今井和人

Profile

砂盛文孝
耐久財メーカーにて、管理会計の業務に従事後、2001年にジャパン・マーケティング・エージェンシーに入社。様々なリサーチに関わったのちの2004年、消費財メーカーに転職。リサーチマネージャーとしてマーケティングやリサーチツールの開発・導入に関わる。2009年2月から株式会社インサイト・ファクトリーの代表を務める。

今井和人
1989年「日本マーケティング・エージェンシー(現ジャパン・マーケティング・エージェンシー)」に入社。業界未経験の状態から、FW部でリサーチの基礎を学んだ後、企画営業部門でクライアントサービスを担当。その後、新規営業や事業開発に従事し、2003年から取締役。宝塚歌劇の大ファン。

クライアントの課題に応えていく醍醐味が
マーケティングリサーチにはある

今井:砂盛くんはマーケティング未経験でJMAに入社したけど、何かきっかけはあったの?

砂盛:前の会社では、事業計画や資金計画の作成など、管理会計の仕事をしていました。耐久財メーカーでしたが、マーケティングの発想はなく、開発した技術を結集して、今できる最高のものをつくりだす文化でした。そのため、それとは対極にある「マーケティングによるモノづくり」に興味を持つようになったんです。

今井:でも、JMAはマーケティングリサーチの会社だった…。

砂盛:マーケティングリサーチとはどういうことかも知らず、マーケティングとの違いもわかっていなかったんです(笑)。

今井:耐久財の老舗メーカーとマーケティングをしている当社とでは企業文化も相当違っていたと思うんだけど、入社当時JMAという会社に対してどう思った?

砂盛:最初に感じたのは、社員が全員、個性的だということ。発想や行動が自由で、いろいろなことをやっていて、知識も豊富。幅広い仕事をしているというのが印象でした。

今井:僕の砂盛君に対する印象は、地頭がよくて、伸びしろがとても大きそう。マーケティング業界が初めてという割に理解度が高く、知識や発想の引き出しも多くて面白い。僕たちも刺激されて、次から次へと話が膨らんでいった記憶があるよ。
実際に携わってみたマーケティングリサーチの仕事はどうだった?

砂盛:いろいろな業界のクライアントがいて、個々が抱える課題に対して消費者調査をして解決していく。企業や製品、サービスごとに個性も悩みのレベルも異なるなか、ベストな提案をしていく。そこに醍醐味を感じました。クライアントとフラットな会話ができるのも面白かったです。

ネットリサーチ の台頭で、JMAも新たな段階へ

今井:JMA時代に印象的だった仕事はある?

砂盛:どのクライアントとの仕事も面白かったですね。リサーチの知識だけではなく、多方面の業界知識も増え、勉強にもなりました。
そのなかでも印象的だったのは、WEB調査(ネットリサーチ )の仕組みづくりに携わったことでしょうか。私が入社した時は、道端でアンケートをお願いしたりするいわゆる伝統的なマーケティングリサーチに、ネットリサーチ が登場してきた、まさに過渡期の時代でした。

今井:そうそう。2000年にネットリサーチ の草分け的存在であるマクロミルが創業。砂盛くんの入社が2001年だから、本当にネットリサーチが出始めたときだった。
その頃はまだ、ネットリサーチに対して懐疑的な人も多かった時期。今後、WEBが普及していくのだろうとは思いつつも、ネットリサーチに舵を切ってしまっていいのか思い切りがついていない時代だった。

砂盛:「ネットリサーチに信頼性があるのか?」といった雰囲気がありましたよね。でも、私はマーケティングリサーチの予備知識がない状態で業界に飛び込んだので、伝統的な調査の意義ってあまり感じていなかったんです。むしろ、ネットリサーチに大きな可能性を感じました。この頃から、ネットリサーチ会社の営業が来るようになっていました。

今井:JMAでもそれらの会社を使ってネットリサーチをやり始めたんだけど、何回か利用して、「これからはこの方法が絶対増えていくだろうから、自前でやろう」ということで、砂盛君に話が行ったんだよね。

砂盛:2003年に、WEBでパネル(会員組織)を集めて、「ネットリサーチの仕組みを自分たちで構築しよう」と今井さんと盛り上がりましたよね。
そう考えると、従来の伝統的な調査をやりつつ、当時の先端であったネットリサーチにも関わることができて、とてもいいタイミングでした。業界が変わっていく瞬間を見ることができました。

今井:従来のリサーチ方法にこだわらない砂盛君だからこそ、進むべき方向を見極めることに協力してくれたと思っているよ。当時、ネットリサーチに懐疑的なままだったら、出遅れてしまっていただろう。新しいものにも柔軟に対応していったことで、JMAが今、50周年を迎えられているともいえるね。

ワンストップで
調査の詳細な打ち合わせができるJMA

今井:ただ、その後はクライアント側である消費財メーカーに転職するという、まさかの展開に(笑)。
我々とも一緒に仕事をする機会があったけど、クライアント視点で見たJMAはどう映った?

砂盛:改めて社員ひとりひとりのリサーチスキルが豊富だと感じました。FGI(フォーカスグループインタビュー)、DI(デプスインタビュー)、CLT(会場テスト)や郵送調査、訪問面接、ネットリサーチなど、テーマに応じて多彩な調査を行なうため、リサーチに対する知見が深いんです。定性調査の話も定量調査の話もできますし。クライアントが多岐にわたっていることから、耐久財や消費財、飲料、サービスなどジャンルの知識も広くて深いと感じていました。

今井:JMAは1人がいろいろなことをやるからね。

砂盛:特に、業務が分業化されていなかったのもよかったですね。担当者に他のことについて意見を求めると、「担当していないのでわかりません」と言われることがほとんどありませんでした。

今井:営業担当がプロジェクトリーダーとしてすべてに関わるようにしているから、担当者がなんでもわかっていないとプロジェクトを動かすことができないんだ。

砂盛:依頼をするとき、「○○調査ならこれ」とメニューだけを提案されても困るんです。求めているのは、自分たちのマーケティング課題に対して、どのような解決策を提案してくれるのか。営業と調査内容の話ができないと、詳細が詰められないんです。そのためにわざわざリサーチャーを呼ぶのは生産的ではありません。JMAはそのストレスがなかったですね。
加えて、良い意味で、クライアントに対するサプライヤーマインドがあまりなかったです(笑)

今井:実際、クライアントに対しても「我々は、サプライヤーではなく、パートナーです。」と伝えているからね。

砂盛:だからこそ、ディスカッションしやすいんです。「この調査にはどんな意味があるのか」「どんな仮説で調査をするのか」「私はこんな仮説を持っている」といったディスカッションができました。

今井:そういったクライアントとの関係性は、創業者である小嶋のマインドによるものが大きいかもしれない。僕は小嶋から直接教えを受けた最後のほうの世代だけど、小嶋は常日頃から、「当社のクライアントは超一流の企業ばかり。その企業と対等に話ができるように勉強しなくてはならない」と言っていた。それは、言われたことをただ引き受けるのではなく、対等な立場で「一緒に仕事をする」というスタンスに通じている。JMAが失くしてはならないマインドだと僕個人は感じているんだ。

クライアントが求めるものは
結果と提案、議論できる関係性

今井:マーケティングリサーチ業界全体の印象はどうだった? 逆の立場になって気づいたことはあった?

砂盛:膨大な調査結果を、そのままポンと渡されることが不満でした。クライアントが調査結果を受けとり、そこから何をするのかというと、結果から示唆を見つけ、課題に対してストーリーを立て、社長など経営層にプレゼンテーションしなくてはならないんです。

今井:調査結果は100枚、200枚ものレポートであがってくるから、目を通すだけでも大変。

砂盛:それを2枚程度のプレゼン資料にまとめるためには、エッセンスのエッセンスを引き出して、ストーリーにするため、かなりの労力がかかります。クライアントは、調査会社にアウトプットまでやってくれることを期待しています。

今井:本来、リサーチ会社もストーリーを立ててオチを考えていないと、調査ができないはずだよね。

砂盛:そうなんです。プレゼン資料をつくってくれと言っているわけではありません。ただ、少なくともストーリーの提案をしてほしいし、さらに言えば結果について議論できる関係性でありたいんです。でも、多くの調査会社は言われた通りの調査をして「結果はこれです。あとはご自由に」というスタンス。当時は、そういった調査会社とは一緒に仕事をしたくないと思っていましたし、他社の方からも同じような話をよく聞きました。

今井:それは、JMAにいた当時は意識していた?

砂盛:できていなかったですね。クライアントの立場になったからこそ、気づいたことです。でも、クライアントが調査結果をどのように使うのかを知っていれば、もっと建設的な議論が調査前からできたと思います。例えば、ブリーフィング時に本当にこの調査課題が必要なのか、優先順位はどちらなのか、場合によってはこの調査では解決できないといった提案や議論ができるはずなんです。そして、そこまでしてくれる調査会社は、非常に貴重な存在となります。

今井:親切なクライアントは、実は我々にも要望を伝えてくれているんだよね。でも、明確に言っているわけではない。言い換えれば、ハッキリと指摘してもらえるほどの関係性を築けていないのかもしれない。

砂盛:クライアントは「もっと我々のビジネスを知ってほしい」とか、「我々のことを分かっていない」といった言い方で表現しています。その言葉に含まれる本音は、調査そのものに対する理解や、提案の有無だったりしているんでしょう。

JMAが培った、プロフェッショナルへの想い

今井:その後、インサイト・ファクトリーを立ち上げたわけだけど、起業したい気持ちはずっとあったの?

砂盛:JMA時代から、一生この仕事をやっていきたいとは思っていました。この業界は専門性が高く、とてもプロフェッショナルな世界。会社員でありながら、ピンで活躍できるほどの知識を持って仕事をしています。だからこそ自分1人の力でやってみたいと思ったのです。

今井:その気持ちがJMAで醸成されていったものだとすると、プロフェッショナルを生み出していく我が社もなかなか素晴らしいね(笑)

砂盛:JMAとしてよかったかどうかはわかりませんが、私自身は、JMAでの学び、経験が「独立してもやっていける」と自信を持たせくれました。

 

マーケティングリサーチは
新たな段階へ向かっていくのか

今井:調査業界を含め、社会の状況が刻々と変化しているなか、最近のリサーチ業界全体を見て、感じるものはある?例えば、脳科学をマーケティングに応用したニューロマーケティングなどの注目している新しい調査方法や、マーケティングやリサーチ業界の今後などについて。

砂盛:ニューロマーケティングは気になりますが、まだ気軽にできる調査ではないですね。今は、スポーツ科学で起こっている動きに興味があります。例えば、100mを10秒切って走れる人たちはどういう走りをしているかを測定して観察し、分析してメカニズムを見つけていくわけですが、それをマーケティングに当てはめれば1人(n=1)を深掘りして科学していることになるわけです。1人であっても、豊富な知見が得られることを証明しています。
マーケティングリサーチとなると「定性ですか?定量ですか?」とか、「定量なら、N=100ですか?N=200ですか?」といった会話にすぐ行きがちですが、そういった安易な発想はよくないと思っています。

今井:業界が少し異なるけど、デザイン・マーケティングでは行われているよね。1人の変化を、時間をかけて追いかけていく。ただ、乗り物など機械工学的なものとの相性がよいけれど、食品などの消費財には少し向いていない。でも、そういう提案があってもいいよね。

砂盛:業界の今後については、私が語れるものではありませんが、個人的には、パネルを使ったネットリサーチ以外の手法に着目しています。今は、ネットワークを流れるビックデータの中から、1つの事象についてサンプリングできる時代です。そうやって集めた点のデータの集積からトレンドを予測していくことが可能です。今後、リサーチはその方向に向かっていくのかなと感じています。
また、調査に参加する消費者へのインセンティブのありかたについても注目しています。消費者から有益なフィードバックを得るためには、調査へのモチベーションをどう設計するか、といった考えも必要だと思っています。

今井:別の言い方をすると、フォーカスグループの手法が疲れてきているかもしれない。もともと知らない人同士で集まって、いきなり話をする手法が日本人に合っているかというと微妙なところはある。
その対処方法ではないけど、最近はオンラインインタビューが増えているよ。WEBカメラを使って、自宅にいながら話が聞ける。被験者にとっての日常を維持したまま話を聞くことで、出てくる情報の量も質も違っているね。

一生をかけても興味が尽きない、
マーケティングリサーチの世界

今井:改めて振り返って、JMAで身につけたものってある?

砂盛:とても細かなことなのですが、ある先輩が定量調査をする際に、調査票をつくる前段階で質問項目を構造化していたんです。Aの質問は何のために必要なのか。AとBの質問にはどんな関係性があるか。そういったことをすべての質問項目で割り出していたんです。入社して間もない私は、それを見て、「調査というのはこうやって構造化していくんだ」と知り、今でもそれは行っています。まずは、調査の仮説を整理して、課題を分解し、課題の優先順位を付けて、それを構造化していく。その癖はJMAでできました。

今井:では、JMAで感じたマーケティングリサーチの面白さは?

砂盛:JMAに入社してから、自分自身に知識がつき、厚みを増していく実感がありました。どの業界で何が起こっているのかを知ることも単純に楽しかったです。
何よりも、調査で得た発見を、クライアントと一緒に共感し合えることが醍醐味でした。お互いに知らなかったことに気付いた瞬間を共有している一体感、ラポールが面白いですね。
今井さんはどうですか?

今井:例えば、AとBという新商品候補があった時に、リサーチ結果で支持が多いほうを選ぶというのが定石だろうけど、少ないほうには熱烈な支持者がいるかもしれないし、そっちの選択理由の中に近い将来大きなトレンドになり得るような何かが隠れている可能性だってある。開発者も支持の少ないほうを市場に出したいと思っているなら、支持・不支持の評価の内実を注意深く見た上での話になるけど、支持の少ないほうを選択することがあってもいいと思う。表面的な数字の奥に隠されたものを読み取ることも、リサーチの醍醐味の一つだと思う。

砂盛:パッケージデザインなどは、決められる人が決めてしまってもいいかもしれません。製品コンセプトをつくっていく過程など、重要なポイントでリサーチを活用してほしいですね。
そして、私が言えることは、リサーチはやっぱり面白いってこと。JMAに入社した当時、こんなに面白い世界があったんだと驚きました。その面白さは今も続いています。

今井:JMAを巣立っていった方たちが、同じ業界でひとり立ちして活躍をしていることは、喜ばしいことだよね。JMAでマーケティングリサーチを学んで、面白さや醍醐味を知り、この業界でやっていきたいと思ったということだから。僕は個人的に、リサーチャーには経験よりも「人としての魅力やポテンシャル、自分の頭で考えることができること」のほうが重要だと思っているので、砂盛君はまさに適していたんだと思う。
そして僕自身も、リサーチを30年やっていても、まだまだ面白みを感じられる世界だと改めて実感した対談だったよ。

 

企画者からの一言

対談インタビュー第2回、いかがでしたでしょうか。今回はマーケティングリサーチ業界の変革期である「web調査の黎明期」に弊社で活躍され、その後クライアント側も経験された砂盛さんに登場いただき、当時の上司である今井との対談を実施しました。「クライアントの担当者と議論ができるJMA」という特徴は無形資産ではないかと思え、これからも我々の強みにしていきたいと感じました。
第3回以降は弊社OG・OB以外の方に対象を広げてお聞きしていきます。ご期待ください。