Interview対談

JMA 50周年企画 対談インタビュー 第1回 JMA モデレーター 吉田聖美×JMA OG モデレーター 肥田安弥女JMAの50周年事業として6回にわたり、様々な業界の方との対談を行います。初回は、弊社でマーケティングリサーチャーとしてスタートを切り、現在はフリーランスとして活躍。日本マーケティング・リサーチ協会のセミナー講師なども務める肥田安弥女さんに、お話をお聞きしました。対談相手は弊社モデレーターの吉田聖美。モデレーター同士の対談は、創立間もない当時のJMAの様子に始まり、モデレーターとしての教育論、理想のマーケティングリサーチャーへと話が広がっていきました。

出席者:肥田安弥女さん、吉田聖美

Profile

肥田安弥女
1978年にJMAの前身である、日本マーケティングエージェンシー東京に入社。まったくの未経験から、主に食品や飲料、家庭用品の定性調査を担当。企画立案、インタビュー、分析などをトータルで担当する。その後、外資系など2社のマーケティング会社を経てフリーランスへ。一般社団法人日本マーケティング・リサーチ協会主催の「定性調査関連のセミナー」の講師も担当する。著書に『定性調査がわかる本』林美和子共著。

吉田聖美
2003年にJMA入社。未経験からのスタートながら、モデレーターとして15年間定性調査の最前線で勤務。インタビューだけでなく、調査企画、報告書の作成まで携わる。年間50~70ジョブに従事し、小学生~シニアまで年間1000名以上の幅広い消費者に接している。豊富な経験を活かし、社内外含め、セミナー講師の経験も持つ。
日本ファシリテーション協会会員。JMAメールマガジンに記事を連載中。

JMAでは最初から
6人制のグループインタビューだった

吉田:大先輩である肥田さんにお会いできて光栄です。

肥田:入社時は、創設者である小嶋庸靖社長(当時)を含め男性社員が4~5人の小さな会社でした。マーケティング・リサーチを知らずに入社しましたが、小嶋さんに鍛えられましたね。

吉田:1978年のご入社ですが、このころから、JMAはグループインタビューが得意だったのでしょうか?

肥田:当時、定性調査はモチベーション・リサーチが全盛の時期。その頃に、欧米から新しいインタビュー手法としてグループインタビューが入ってきました。欧米は7-8人で行うのですが、JMAではディテールド・グループ・インタビューと名付け、さらに少ない6人で始めました。グループインタビューで日本人の消費者の意識を深めるには、6人がちょうどいいと小嶋さんが思ったのでしょうね。

吉田:なぜ、今の日本のグループインタビューは6人が多いんだろうと思っていたのですが、JMAが最初だったんですね。

新人教育に適した論文トレーニング

論文トレーニングを見て懐かしがる2人

吉田:まったくの未経験から、どのようにマーケティングを学ばれていったのでしょうか。

肥田:入社後2ヶ月ほど、毎朝、論文トレーニングをしました。最初は、1つのグラフについてコメントするところから始め、模範解答を確認しながら、ステップアップしていきます。

吉田:論文トレーニングは私もやりました。指導係の方に添削してもらい、赤ペンで返ってくる形を繰り返しました。

肥田:15分で書いて、15分で小嶋さんから回答をもらうんですが、時には回答が午前中いっぱいかかることも。回答のほかに、「この時期にこういうエポックがあったから、ここがこうなったんだよね」と時代背景やマーケティングの基礎なども教えてくれました。

吉田:単なるデータの読み方だけではなく、そこにある背景や視点の話もあったんですね。

肥田:この論文トレーニングはとても役に立ちました。どうやって数字を見るかを学びましたし、色々なことを吸収できました。JMA以降、2社に転職しましたが、どちらの会社でも新人にはこれを勧めました。これをグループ内で発表させるんです。すると、他者はどういう視点で解釈をしたのか、どういうふうに考えているかがわかるんです。

吉田:たしかに、新人教育に適していますね。当社ではここ最近やっていなかったので、復活させようかという声があるんですよ。

クライアントとともに行なうブレストで、
仮説と課題を共通認識に

肥田:ブレーンストーミング(ブレスト)もとても鍛えられました。調査依頼が入ると、必ずクライアントを交えて仮説ブレストをします。担当モデレーターとアシスタント、営業、社長の小嶋さん。そして生活者の視点を持つ他の社員やアルバイトなどが参加し、クライアントに来社してもらうブレストを実施していました。

吉田:クライアントも一緒のブレストですか?

肥田:そうです。その場では、本当に生活者の視点で語り合います。すると、クライアント側から「実はこういうことを考えている」とマーケティングの課題がたくさん出てくるんです。企画書だけではわからないことがわかるんですね。そこで、仮説を立てながら調査課題を整理していました。

吉田:いわゆる「仮説ブレスト」ですね。今はクライアントとすることは減っていますが、
社内では行っています。とはいえ、一緒に行うことで、クライアント自身がマーケティング課題に気づき、理解することにつながるんですね。

肥田:そうなんです。クライアント自身が、マーケティング課題を理解していないことは、思いのほか多いものです。だからこそ、打ち合わせでいかにそれを引き出すかが大切なんですが、その打ち合わせをブレストにして、生活者視点を取り入れたのは斬新な方法だったと思います。生活者の視点だから言いたいことも言える。調査開始までにコンセプトの軌道修正もできました。

吉田:事前の仮説ブレストは脈々と続くJMAの文化だったんですね。

肥田:そのため、当時のJMAのクライアントは、「自分たちがマーケティングリサーチャーを育てている」という意識を持っていらっしゃいました。まさに、一緒に課題解決に取り組んでいたのです。

ブレストはJMAの文化だった

クライアントファーストの視点で課題を洗い出ししつづけた小嶋社長(当時)の著書。

吉田:調査後は、結論ブレストも行っています。これも、当時から続いていると聞いたことがあります。

肥田:結論ブレストでは、課題に対して何がわかったかを、レポートを書くモデレーター、アシスタントと小嶋さんで行いました。長いもので3日間かけたことも。でも、結論ブレストをしっかりと行っているので、レポートは一気に書き上げることができるんです。

吉田:一見、非効率に見えて、実は効率的な方法ですね。

肥田:この方法は、モデレーターというより定性リサーチャーを育てるのに優れた方法だと思います。当時まだ駆け出しで、半分主婦だったような私が、大手企業のクライアントを相手に自信を持ってプレゼンできたのは、仮説と結論、2つのブレストがあったからこそです。

吉田:ブレストをすることで複数の視点が組み込まれ、様々な気付きにつながるわけですね。現在、JMAも社員数が増え、多彩な属性があります。それぞれの属性から気づいたことを自由に言える雰囲気がJMAにはあり、それは大切にしたい文化かもしれません。

肥田:また、新人がグループインタビューを担当したときは、小嶋さんがふらりとやってきて「どうだった?」と聞くんです。新人が対象者の発言を伝えると、「それは、課題1に対しての○○だね」とアドバイスをしてくれます。そこで、「あの発言はそういうことだったのか」と気付くんですね。1つの発言から課題に対して何を読み取るのかを学びました。

吉田:常に「課題」に対する意識があるわけですね。

肥田:小嶋さんにとっては「課題」こそが大事だったのでしょう。課題を構築してどのように納得できるように結論を見せていくのか。それが、JMAの定性調査の見せ所だったんです。

吉田:私も新人の頃は、ブリーフィングで「こうでした」と報告しかできませんでした。それに対して先輩方は、「課題に合わせると、こういうことだよね」と返答してくださり、課題との結びつきを学びました。JMAの伝統だったんですね。

新製品調査で叩き込まれた、定性調査の基礎

当時は、新製品調査はコンシューマーレポートとして販売していた。

肥田:アシスタント卒業間近になると、毎月、食品10商品に対してヒットの仮説を立て、グループインタビューを実施し、仮説と課題に対して結論を書き、改善を考える新製品調査をやらされました。

吉田:先ほどから「課題」とともに「仮説」も頻繁に出てきています。これだけ仮説を立てることが徹底されていると、課題を洗い出しするうえで「仮説を立てることが大事」という意識も刷り込まれますね。

肥田:そうなんです。その10商品を集めるのは新人の役目ですが、新人なりにヒットの仮説を立てて30商品ほどを選びます。小嶋さんに選んだ理由を説明すると、「これは古い」「これは味が違うだけ」と振り落とされ、10商品に絞り込まれていきます。その時に、商品の歴史も語ってくれるので、仮説を立てる訓練であると同時に、幅広い商品知識を得る機会でもありました。

吉田:それは鍛えられますね。私も新人の頃に飲料などの商品背景を教わりました。「短いスパンで見るとこういう変化があるけど、長いスパンで見ると世の中がこう変わったから、そのタイミングでコレが発売され、ヒットした」と俯瞰的な視点を交えた知識です。

肥田:そういう背景を学ぶことはとても重要なんです。そして、選んだ10商品で、アシスタントがグループインタビューを実施します。2時間半で10商品を行うため、1商品にかける時間は10~15分程度。時間内で仮説に対する結論付けをするためには、いかに絞り込んで話を聞くか、インタビューテクニックの訓練になりました。さらにその結果をコンパクトにまとめる練習にもなりました。

吉田:その方法は、普段から、マーケッターとしてアンテナを張ることに繋がりますね。

 

仮説を立て、課題を洗い出せるリサーチャーであれ

吉田:今の定性調査について、肥田さんはどう思われますか?

肥田:調査課題をわかっていないことが多いですね。企画書に課題が書かれていないんです。これは私がセミナーの講師を始めたころから感じています。
結論を出すには仮説と課題が大切です。仮説を立て、課題が考えられるモデレーターは、優れたマーケティングリサーチャーといえます。業界はそういった人材を育てなくてはなりません。

吉田:優れたモデレーターは優れた定性リサーチャーでもあり、優れたマーケティングリサーチャーでもあるわけですね。

肥田:そうです。そして、自分で考えた結論を導き出してほしいですね。そこにノウハウはありません。
新人の頃、結論ブレストの結果とは違う結論になってしまったことがありました。どう考えても違う。どうしようと思いながらも、小嶋さんに自分の考えと結論を伝えました。すると、「それでいいよ」とあっさり認めてくれました。それは、私が自分で考えて出した結論だったから。それを認める度量がJMAにはありました。他者の意見を聞き、自分の意見を述べるブレストは、結果として自分で考えることを学ぶ場でもありました。

吉田:私も、結論ブレストで意見が分かれることは何度もありました。自分はこう考えたので、こういう結論だと思う。相手が先輩であっても議論を重ねることができる文化は、今のJMAにも引き継がれています。

これからは、
クライアント自身に結論に気づいてもらう調査へ

吉田:定性調査はこうであってほしい、今後はこうなるのではといった予測はありますか?

肥田:今、コグニティブ・インタビューをはじめとしたパーソナルインタビューが流行っています。コグニティブ・インタビューは、相手に実態を話してもらい、その時の気持ちを思い出させて、ニーズを探るものです。そこから課題となりそうなものを引っ張り出しますが、実態を聞いているだけでは単なる実態把握です。結論付けるためには、課題を引き出す仕掛けが必要だと思います。

吉田:パーソナルインタビューの増加は、それぞれの方のことを深く知りたいというニーズが増えているからではないでしょうか。カスタマージャーニーのような形で、1人の人に対する変遷を理解したいというニーズが多い気がします。
パーソナルインタビューの後に、クライアントと一緒にワークショップをすることも増えていて、これはJMAで昔から続くブレストの延長とも言えそうですね。
肥田さんも、ワークショップが増えていると感じますか?

肥田:そうですね。リサーチャーが導き出した結論を見せるのではなく、クライアントにも一緒に考えてもらい、クライアント自身の気づきを引き出す。そういった流れが増えています。

吉田:結論を提供するだけでは、ともすれば気付きの押し付けになってしまうということですね。

肥田:定性調査は、結論を出して次のステップを示唆しなければなりません。その方法が変わってきているのでしょう。
今、インタビュアーはたくさんいて、クライアントがインタビューを行うことも少なくありません。インタビューテクニックがあるだけでは、定性リサーチャーとは名乗れなくなっています。クライアントの課題を理解して、それなりの答えが出るようなインタビューをして分析。さらに、クライアントから結論の気づきを引き出す。それができる人こそが、これから求められる定性リサーチャーなのではないでしょうか。

吉田:それには、仮説立てと課題を洗い出せるマーケティングリサーチャーでなくてはならないんですね。

肥田:そうです。そして、その一連の流れは、インタビューという手法をとる定性調査ならではの醍醐味。それができると定性調査の価値も上がっていくと思います。

吉田:定性リサーチャーから、マーケティングリサーチャーへ。これからのマーケティングリサーチャーは、過去の色々なものを大事にしつつも、世の中の移り変わりにはアンテナを張り、今何が求められているのか。今、クライアントには何が必要かを考えつつ、新しい手法や課題を考えていかなくてはならないなと感じました。

企画者からの一言

50周年の節目に、過去とこれからのJMAについて考えるため、色々な方にお話をお聞きするのが本対談インタビュー企画となります。今回は日本の定性調査をけん引されてきた弊社OG:肥田安弥女さんと、弊社現役モデレーター:吉田聖美の対談という形式で実施し、現役の我々自身も改めて知ることの多い本当に気づきの多い機会となりました。
第2回以降も企画しておりますので、ご期待ください。