朝活の実際
ピロロ、ピロロ、ピロロ……携帯のアラームがシブヤの部屋に鳴り響いた。
シブヤ「なんだよ、こんな早くから、もう……あっ、そうだった。今日は朝活の日だ。ヤバイ、遅れる!」
シブヤ「メシ、メシ、服、服、セット、セット、あっ、定期!」
いつもは朝遅いシブヤが、珍しく早起きして向かう先は朝活で有名な『KK新聞を読む会』である。この会はあるビジネス誌で取り上げられており、朝に経済新聞を読んで、意識の高い参加者と話をする会だと知り、有名なSNSメクシーで参加を申し込んだのだった。
シブヤ「新聞も持ったし、電車で読みながら行きますか!よし、時間には間に合いそうだな。」
電車を降りて、しばらく歩くと会場のある有名ホテルが見えてきた。
会場は某ホテルの1階ラウンジとなっていて、既に7、8人が集まっていた。
シブヤ「あの人達かな……新聞を持っているし……」
シブヤ「おはようございます。『KK新聞を読む会』はこちらですか?」
日比谷「そうです、参加者の方ですか?はじめまして。」
背の高い、穏和な雰囲気の男性がシブヤに声をかけた。
シブヤ「はじめまして!今日初めて参加するシブヤ龍太郎です。よろしくお願いします。」
日比谷「『KK新聞』をお持ちだったので、すぐに分かりましたよ。僕が主催者の日比谷です。メクシーでは、"ひびぃ-"といいます。今日はよろしくお願いします。」
シブヤ「僕はメクシーでは"りゅーたろー!"です。それにしても、色々な方が参加されるんですね。」
日比谷「そうですね、金融の方、IT企業さん、電機メーカーさん、学生さんなど色々な方が参加していますよ。今日は本の著者さんも来られますよ。」
そうしているうちにメンバーは30名程度となり、4グループに分かれてラウンジに座った。
一通り自己紹介が済むと、日比谷が口火を切った。
日比谷「では、自己紹介も済んだので、今日の新聞で一番気になった記事について、どういう点が気になったのか教えて下さい。」
参加者A「日本企業がスペインで太陽光発電に参入するという記事があったんですが、うちも海外に進出しているメーカーなので、色々気になっていまして、具体的には……」
参加者B「私は、同じ女性として尊敬している女子ゴルファー宮里藍の話で、スポーツの世界のメンタルコーチの話が気になりました。特に……」
シブヤ「へー、みんな着目点が違って面白いな……。意識も高そうだし、すごいな。」
周りの参加者の発言に刺激を受けるシブヤだった。
ここで話は2週間前に飛ぶ。
朝活向け食品
シブヤ「えっ、朝活ですか?」
赤坂「そうなんです、シブヤさん、少し前からブームになっている朝活というシーンに適した食品を作りたいと考えていまして。」
赤坂はジャパンシリアル社の商品開発担当であり、今回は朝活という切り口で商品を開発しているようだ。
シブヤ「そうなんですか、僕はさっぱりなんですが、知り合いの間では朝活をやっているヤツも何人かいるようです。」
赤坂「やはり、そうなんですね。今回は、その朝活の実態や、どういった意識で朝活をしているのか、そこで、食品にどんなニーズがありそうかを調べたいと考えていまして。」
シブヤ「分かりました、ぜひ詳しくお話を聞かせて下さい。」
シブヤは電話で一通りの話を聞き、後日訪問することとした。そして、隣の席の麻布に声をかけた。
シブヤ「麻布さんは朝活ってしたことある?」
麻布「えっ、朝ですか!ちょっと朝は弱くて会社に来るだけでやっとですね。」
シブヤ「そうか、そうだよね。分かる分かる。じゃあ、このフロアで朝活やっていそうな人っているかな?」
麻布「そーですね、梅田さんも、駒場さんも、※そういうイメージじゃないですしね……。」
※梅田と駒場は、シブヤの部署の先輩と上司。
シブヤ「むしろ、夜は元気だけどね(笑)。」
麻布「そうそう(笑)」
シブヤ「となると、アイツか。」
麻布「あっ、集計の難波さんですね!」
シブヤ「正解~!じゃ、ちょっと行ってくるよ。」
早速シブヤは同期の友人である、難波の席に向かった。
難波「龍太郎、例の集計データはさっき送っといたよ。」
シブヤ「見た見た、サンキュー!ところで、隆って朝は強いの?」
難波「なんだい、唐突に。まあ龍太郎よりは強いかな(笑)、そうそう、こないだは朝に勉強会に行ってみたよ。」
シブヤ「朝に勉強会?なんて読み通り……それはどんな会なんだい?」
難波「読み通り?まあいいか。日本橋朝食会ってやつで、ビジネス書の著書の方が来て話を聞きながら朝食を食べる会なんだ。なかなか面白かったよ。」
シブヤ「そうか、面白そうだね。」
難波「興味があるんだったら、龍太郎も行ってみたらどうだい?実際に見てみた方が早いよ。」
シブヤ「そうだねー、うーん、でも朝弱いんだよね~。」
難波「そういえば、きれいな女性も参加していたな……。」
シブヤ「やっぱり、朝活は実際に参加しないと分からないよなー。」
難波「そうそう(笑)。」
シブヤは朝活について調べ、どうやら朝の勉強会の中では有名な『KK新聞を読む会』に参加してみることにした。
朝活の仮説
そして話は冒頭に戻る。
ジャパンシリアル社、赤坂との打ち合わせを終え、シブヤは会社のデスクでPCに向かって調査票を作成していた。
シブヤ「そもそも、朝活している人ってどれくらいいるんだろう?」カタカタカタ……考えながらPCで作業をするシブヤ。
シブヤ「朝活している人ってどういう年代が多いんだろうか?」
シブヤ「朝活の定義ってなんだろうか?」
シブヤ「朝活って毎日やるモンなんだろうか?」
シブヤ「朝活する人って何時に起きているんだろう?」
シブヤ「朝活する時って、何を食べているのかな?」
シブヤ「朝活のメリットってなんだろう?デメリットはあるんだろうか?」
麻布「どうなんでしょうね?」
シブヤ「そこなんだよなー……えっ、ビックリした!なんで分かったの?」
麻布「全部聞こえてましたよ(笑)。」
シブヤ「うわっ、そうか、焦ったよー。」
麻布「朝活のメリットですよね?」
シブヤ「そうなんだ、ちょっとこれを見てもらえないかな?」
シブヤはPCの画面に映った作りかけの調査票の一部を指した。
- Q12.朝活のメリットだと感じていることはなんですか?
-
- 時間を有効活用できる。
- 通勤ラッシュに巻き込まれない。
- 夜に比べ、参加費などが手頃。
- 健康的である。
- 早起きすると気分がよい。
シブヤ「まだ他にもありそうなんだけど、思いつかなくて。」
麻布「うーん、そうですね……、あっ、朝だとお酒はでませんよね。」
シブヤ「そうそう、ホント残念だ……。」
麻布「私もお酒は好きなんですけれど、お酒の席がないと、その分お金もかからないし、終電も気にしなくていいですし、いいところもありますよね。」
シブヤ「そうか、それもありそうだね。夜と違う点を考えると、またメリットが見えてくるもんだな。」
麻布「そうですね。」
調査票作成では、どういった項目を聞くのか、どういった順番で聞くのかといった構成の他にも、小さなものも含め色々な仮説を考えることが必要であり、仮説を作るには視野の広さも大事になる。
駒場「おうおう、例の件、調査票作っているのか?」
近くを歩いていた上司の駒場が話に加わった。
シブヤ「あっ、駒場さん、さすがにお酒の話になると嗅覚鋭いですね-!」
駒場「何を言っているんだ、そんなことはないぞ(笑)。」
ニヤリとしつつ、おちょこでグイッとやるアクションをする駒場だった。
駒場「調査に仮説が必要なのは当然だが、どれだけ仮説に自信があって正しいと分かっていても、他の仮説や可能性も考えておく必要がある。本命の仮説が数字で何%と確認できる事も重要だし、他の仮説に対してどのくらいの差があるのかも把握できるからな。そして1つの仮説にこだわりすぎると、意外な発見があっても見落としやすくなったりするから気をつけろよ。」
麻布「はい!」
シブヤ「…そういえば、かなり前に調査票を作ったときに、選択肢があまくて、『その他』の回答がずいぶん多くなっちゃって、駒場さんに説教されたんだよな。」
駒場「そうだシブヤ、あれはなかったぞ(笑)。」
シブヤ「えっ?!」
麻布「全部聞こえてましたよ(笑)。」
そして、調査票案が完成し、ジャパンシリアル社の赤坂と打ち合わせを実施することとなった。
いつもはメールや電話で連絡して調査票を詰めていく事が多いが、今回は初めてのテーマであったため打ち合わせで確認を行うことになった。
シブヤ「では、昨日お送りした調査票について、最初の方から確認をさせて下さい。」
赤坂「はい、お願いします。」
……そして1時間後。
赤坂「では、先ほどの点の修正をして頂いたら、調査票をフィックスとしましょう。」
シブヤ「分かりました。修正が済みましたらファイルをお送りします。」
そして、Web調査が実施された。
シブヤ龍太郎のリサーチファイル「朝活編」は、次回Web調査を実施し、その結果を用いてストーリーが展開されます。次回をご期待下さい。
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