株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 ディレクター 牛堂雅文
マーケティング・リサーチには、「プロダクト調査」など、この調査で何を確認するかある程度明確であり、「発売の可否を判断する材料を得る」といった比較的定番の調査設計・項目があるケースがあります。
一方で、クライアント企業からモヤモヤしたマーケティング課題をご相談頂くケースもあります。今回は「課題の分解・発散・整理」と、それでも「モヤモヤ」が残りやすいケースについて述べたいと思います。
もちろん、課題整理の仕方は属人的スキルによるものが多いため、経験によるものではありますが、あくまで「個人的な見解」という前提で書かせて頂きます。
さて、マーケティング課題は様々なタイプがありますので、一概に言いにくいのですが、例がないと話を進めにくいため、仮のケースを考えました。

定番商品「A」の売り上げがじりじりと低下。一方、ライバルも苦戦しているようで、そもそもの「この商品カテゴリー自体」の魅力が低下している。他のカテゴリーに取られている気もするが、ハッキリはしない。そもそもの訴求点である「天然成分による、健康志向の製品」という点も受容されてはいるようだが、同カテゴリーの競合、他のカテゴリーも含め天然成分の物が多く、今となっては差別性がなくなってきた。
ユーザーに聞いても今までに何度も聞いた意見が多く、定性的にもユーザーは段々覇気のない人が増えてきたようだ。ブランドをリニューアルをしたいが、どう直せばよいのか?

…こういった課題を頂くことがあります。
もちろん、仮説が明確にあればよいですが、仮説以外にも複数の要因がある可能性もありますし、視点としてはまずは広めに課題を捉えた方が良いでしょう。例えば老舗ブランドであれば「認知度」はあまり問題がないと思いますが、視野には入れておきます。
■課題の分解

最初にフレームワークを用いるなどして、まず、課題を分解していきます。
例えばおなじみマーケティングミックス「4P」のフレームワークであれば、
・そもそも知られていない・伝わっていない(プロモーションの問題)なのか?
・製品(プロダクト)の問題なのか?
・価格設定(プライス)が適切でなかったか?
・手に入りにくい(プレイス)問題なのか?
さらに分解すると、
・ブランドイメージが変化してきていないか?
・商品コンセプト自体の魅力度が低下していないか?
・慣れによって効果感が感じにくくなっていないか?
・パッケージで商品特徴が伝えられていないのではないか?
・店頭でパッケージが目立たないのではないか?
「3C」の競合視点では、
・競合に流出していないか?
・他のカテゴリーに流出していないか?
顧客に視点を置くと、
・ターゲット層のライフスタイルが変化し、この商品ではカバーできなくなっていないか?
・新規ユーザーが減っていないか?
・購買インターバルが長くなっていないか?
・不満・不具合があっても面倒で放置し、自然と離脱していないか?
人的販売のものなら、
「営業が他の売りやすい、手離れのいい製品を優先して売っていないか?」といった視点もあるでしょう。
…切り方は商品カテゴリーによっても異なり、色々な視点がありますので、頭のひねりどころとなりますが、まずは課題を分解し、【調査で検証できる形(リサーチ課題)】に翻訳していきます。
「分解された課題」の中には、「既に分かっている既知のこと」や、「法令の壁」のように改善の難しいこともあり、切り分けても調査ではクローズアップしないものもあるかもしれません。
これらの「検証できる課題」である「リサーチ課題」の目途がついたら、次は「順序」を意識し、購買プロセスの順番、回答しやすい順番、バイアスがかかりにくい順番などに並び替え、「流れ」を意識したものとします。購買プロセスでいえば、パーチェスファネル、カスタマージャーニーマップのどこに、どのような問題があるか?という捉え方もあります。
また、「通常の聞き方ではアプローチしきれない」ことに気がつくことがあります。
その場合、「行動観察」で行動にでる潜在的なニーズを拾う、「コンジョイント分析」で重視度を明確化する、「投影法」で言葉になりにくい点を探る…といった「手法」も意識します。そして、経験が十分でないものはその手法の情報収集を行います。
■発散と整理

上記の作業を終えると、おおよそ聴取項目になってきているはずです。
ここで、「発散」「整理」が行われます。
「ブランドイメージ」は、「地味、大人しい、信頼できる」…などどういったイメージワードが適切か。「購入インターバルが伸びた理由」は、「故障しないから、性能向上が感じにくくなったから、延長保証で直して使うようになったから」…などどういった理由がありそうか。
「発散」は事前に情報が多い場合にはさほど苦労しないかもしれません。しかし、情報不足で見当がついていないケースでは、そもそもの「発散するほどの知見がない」こともあります。
理想的には、インタビューなど定性調査で知見を得ることが優先されます。それが難しい場合でも、ユーザーやターゲット層に近い周囲の人に意見を聞く、売り場へ出向く、Web上の口コミ情報を見る、など「発散」ができるだけの情報を収集します。
「過去の他カテゴリーの事例」も比較的近いことが起こっている可能性があり、発散のヒント・材料になりえます。
「発散」による具体的な個々の仮説は「整理」により、設問や選択肢に集約されていきます。まずは「発散」の思考で作成されたものを、似たものをまとめたり、レベル感の統一をしたりと「整理」していきます。
なお、最初からきれいにしようとしてレベル感などを合わせる「整理」をしてしまうと、抜け、見落としを生むこともありますので、最初は自由に「発散」するようにしています。
「発散」「整理」は実際に付箋を使わないとしても、「KJ法的な思考プロセスとなります。分解した課題から、付箋で広げるように仮説を膨らませ、そこから収斂していきます。(実際には過去の調査事例から選択肢を流用することも多いかもしれませんが。)
ここまでで、アラ削りながら調査票やモデレーターガイドの骨格ができてきているはずです。いわば、「この質問でこの部分を明らかにする」という設計図が出来上がります。
■それでも、課題がクリアーにできないのはなぜか?

こういったプロセスを踏むことで、「課題がどうすれば明確になるか」が見えてきているはずです。しかし、課題をフレームワーク等で分解していっても実際にはまだ「モヤモヤ」していることも多く思えます。
経験上、モヤモヤが残りやすいケースは…

1) そもそも、「○○意識」など目に見えにくい漠然としたものがテーマの場合
2) 市場が緩やかに変化し、「手ごたえが感じにくく確信が持ちにくい」場合
3) 「課題であること」が起こる現場を見たり、聞いたりしたことがない場合
4) 偶発的ブームが去った…など好調にそもそもの課題が潜んでいる場合
5) 課題はクリアーだがアプローチ方法が見つからない場合

…です。
上記は少しかぶる話でもありますが、それぞれに触れて行きますと…。
1) そもそも、「○○意識」など目に見えにくい漠然としたものがテーマの場合
これはテーマの性質上やむを得ないのですが、「安心意識」と「不安意識」で比較をするなど、比較などで少しでも見える化できるように心がけます。(また、共分散構造分析では、観測できないものに対し、「潜在変数」を用います。)
2) 市場が緩やかに変化し、「手ごたえが感じにくく確信が持ちにくい」場合
毎年微減を続けている場合などで、売り上げやユーザーが減っていても非常に体感しにくいケースです。対前年比95%でも売り場の客は減ったようには見えません。ユーザーペルソナが多少高齢になったケースでもやや気が付きにくいでしょう。微妙な変化は定量調査でも白黒出にくいように思えます。(その場合、継続層、中止層といった切り方の方が良いかもしれません。)
3) 「課題であること」が起こる現場を見たり、聞いたりしたことがない場合
少し前の事例かもしれませんが、「TVがない家」「固定電話がない家」「自宅PCなしでスマホで済ませる若者」のように、その現場を目にしにくいケースです。数字上はそうでも、感覚が追い付きませんので、納得がいかずモヤモヤが晴れません。(なお、我が家には固定電話がなく、TVも稼働率が低いので、この例では個人的に全くモヤモヤしませんが。)
4) 偶発的ブームが去った…など好調にそもそもの課題が潜んでいる場合
以前が実力以上の売れ行きだったなど、一時的な追い風、ブーストがなくなった状態であり、認めたくはありませんが、低下した状態が本来だという場合です。リピート理由を中心に手堅い方向へ転換する要素を探すことになります。
事例でとしては、かつて玩具のルービック・キューブ」は空前のヒットを記録しましたが、それはブームに過ぎませんでした。しかし、その後も地道に愛好者が利用を続け、考案から40周年を迎える息の長い製品となりました。
5) 課題はクリアーだがアプローチ方法が見つからない場合
現状のマーケティングリサーチ手法・分析手法の限界や、ユーザーへのアプローチが困難な場合です。ただ、リサーチャーが勉強不足…という可能性もありますので、自分を疑う姿勢も必要です。実際には先行事例、解決した人がどこかにいるのかもしれません。それにドンピシャではなくても、「近いところまでいけないか?」という発想もあります。
このようにモヤモヤが残るケースもありますので、全てをクリアーにできる訳ではありませんが、あらゆる角度から課題にライトを当て、少しでも明確化していくことで、次のステップに自信を持って進めるようにクライアント企業のお手伝いをしていきたいものです。

※「KJ法」…文化人類学者の川喜田二郎(東京工業大学名誉教授)がデータをまとめるために考案した手法である。KJは考案者のイニシャルにちなむ。 データをカードに記述し、カードをグループごとにまとめて、図解し、まとめていく