株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
取締役フェロー 澁野 一彦
◆人類史上初めての「長い老後」をどう生きるか?

日本の65歳以上の人口が3000万人を超え、全人口の4人に1人が高齢者になった。
ただ、日本社会の高齢化がもたらす問題は、高齢者が増えたということだけではない。高度成長期以降、日本人の「平均寿命」が大きく延び、「長い~長い老後」を持つようになった。極端に言えば、今までの日本人とは違う” 新しい生態系の生き物が生まれた”ということである。
日本では、伝統的に60歳を還暦として、仕事からリタイヤしたり、第一線から隠居する区切りの歳であった。
飛鳥時代の701年に制定された大宝律令では、21歳から60歳までの成年男子を「正丁」と称し、庸・調・雑徭・兵役を課し、61歳以上はそれらの課役が免除されている。
江戸時代でも、農村ではだいたい60歳をすぎると隠居していた。平均寿命が短かった1950年ごろまでは、それで合理性があった。※1
日本人の平均寿命が初めて50歳を超えたのは1947年(50.06歳)で、本当につい最近のことである。それが2014年の平均寿命は女性86.61歳、男性も80.21歳に、また現在の60歳の人の平均余命は、男性が23.14年、女性が28.47年で、 60歳は「人生80余年」の4分の3を経たばかりの通過点に過ぎなくなっている。
平均25年もの老後を持つのは、これまで人類が経験したことがない。「長い老後をどう過ごすか」が、今や大きな社会課題となり、世界に先駆け超高齢社会を迎えた日本に 「長い老後」に合わせた高齢者の新しいライフスタイルモデルの整備が求められている。
◆元気な高齢者が増加 ~アクティブシニアの「生活機能(活動能力)」を総じて高い

ここでは、「長い老後」が進む日本人高齢者の「生活機能(活動能力)」について考察する。
弊社の自主企画調査『シニアライフ・センサス2014(45歳以上の男女1400人対象の生活実態調査)※2』で、現代シニア層に自身の「生活機能(活動能力)」を聞いた。(当調査はインターネット調査であることを勘案)
この高齢者層対応の『活動能力指標』は、独立行政法人「国立長寿医療研究センター」が作成した『JST版新活動能力指標』に準じており、「独り暮らしの高齢者が自立し、活動的な日常生活を送る上で、必要な機能・能力を測る」指標として設定されている。
この指標は、高齢者の生活機能を「社会参加」「新機能利用(1部修正)」「情報関与」「生活マネジメント」という4つの因子に分け、それぞれ4項目の計16項目の設問で測定する。(「はい」「いいえ」の2択)
(以下参照)
■シニアの活動能能力指標(JST版「新活動能力指標」に準ずる)
シニアの活動能能力指標(JST版「新活動能力指標」に準ずる).gif
下記は、全体(45歳以上)と男女別の「社会活動能力」を自己診断した結果である。」
■活動能力評価の自己診断結果(45歳以上男女)
シニア活動能力指標.jpg
これを見ると高齢者の活動能力は「新機能利用」の2項目以外は、総じて高いレベルで自覚されている。

 ・「社会参加」に関する項目については、いずれも3割前後の同意率。男性高齢層での同意率が高い傾向。
 ・PC、スマホの「新機能利用」については、シニア層ではまだ浸透段階というところか。
 ・「情報関与」に関してはいずれも高い同意率。特にシニア男性の旺盛な情報収集意欲が目立つ
 ・経験値が高いためか、シニア層の女性の生活マネジメント力は高い

◆アクティブシニアの活動能力のピークは70代?

下記グラフは、「社会活動能力(自覚)」の年代変化である。
実線(折れ線)は、「社会参加」「情報関与」「生活マネジメント」の3つの指標の平均値を男女別に年代を追って表示したもの。また点線(折れ線)は、「新機能利用」の平均値の年代変化を表示。
■社会活動能力の年代変化
活動能力指標・性年代別.jpg
これを見ると、男女とも「新機能利用」以外の生活機能(「社会参加」「情報関与」「生活マネジメント」の3指標)は60歳代後半で上昇傾向に転じ、70歳代まで延びピークを迎えている。
「新機能利用」に関しても、高齢になるに従い緩やかな下降は見られるが70代までは、若い世代に比べて大きく落ち込む様子はない。
今回の調査は、インターネット調査で実施したため「健常な高齢者」が大半を占めると思われるが、その中でも高齢者の(「新機能利用」以外の)「生活機能」については70歳代まで衰えることがなく、むしろ50歳代の人よりは高いということが特筆できる。
◆アクティブシニアの有効活用 ~「長い老後」は貴重な社会資源

今の社会は、産業や家族構造が変化し、高齢者の出番が失われてしまった感があるが、当「シニアライフ・センサス(定期調査)」では、この3年間で高齢者の就労率は延長傾向にあり、60歳代を超えても働き続ける高齢者は増えている。また前述の調査でわかるように、(普通の健常シニアでは)70歳代位までは生活機能や社会活動能力は衰えていない。
以前当コラムでも書いたが、介護施設の非常勤職員や地域の在宅の生活支援サービスの担い手として、社会活動力の旺盛な70代の元気な高齢者が 一回り先輩の80代から90代の弱った高齢者を支える「高高支援」が広がってきている。高齢者同士で気持ちが理解できると評判も良いようだ。
日本の社会は何歳の時には何をするという年齢意識が非常に強く、18歳で一斉に大学に入り、22歳で就職する。しかし人の成長過程には、一人ひとり違いがある。まして高齢者はより一層個人差が大きい。
同じ70歳でも、知識や経験、また体力、経済力、生活環境など個体差がばらばらである。一律に70歳代まで働けというには無理がある。ただ、「社会活動力」のある元気な高齢者は70歳を過ぎても働けばよい。
皆が70歳まで働く必要はないし、また元気な高齢者が70歳代になったからといって働くのをやめる必要はない。高齢者の世界でも、多様性を持った社会が望まれている
今少子高齢化により、近い将来の日本の労働力(働き手)不足が懸念されている。
この労働力不足の対策として政府が打ち出しているのが、「女性の活躍支援」と「外国人の受け入れ拡大」、そして「高齢者の活用」である。前者の2つがいろいろ制度上の改革が必要で課題が多いのに対し、「高齢者の活用」は社会の環境整備をすれば比較的実現が可能である。
「長い老後」は今の社会の貴重な資源と考え、高齢者を上手に活用していく手立てを最優先に考えていくべきであろう。

※1:参考資料:鬼頭宏著「人口から読み日本の歴史」、「2100年、人口3分の1の日本」
※2:JMA自主企画調査『シニアライフ・センサス2014』