株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 ディレクター 牛堂雅文
人の記憶にはどうしても「あいまいな部分」があり、実態を把握する調査では以前のことや、手元にないものの回答はややリアルさにかけることがあります。そこで、現場や記憶が新しいうちに記録できる、スマートフォンなどを用いた調査が用いられることがあります。
そして、スマートフォンにあるGPSをはじめ、身の回りには「小型のセンサー」があり、人々の動向や使用状況が、年々把握しやすくなってきています。
今回は、マレーシアで開催された「APRCカンファレンス」の感想も含め、ビッグデータ・「IoT」(Internet of Things)など【ITとマーケティングリサーチの将来像】について考えて行きたいと思います。
■マレーシアのAPRCカンファレンス

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10月14日にマレーシアで開催された、アジアのリサーチ業界のカンファレンス「APRCカンファレンス2014」では「マルチプラットフォーム」と「エンゲージメント」がテーマになっており、スマートフォン、タブレット、PCといったデバイスと、そこから得られる写真、GPS情報、アンケートなどを積極的に使っていこう…という呼びかけがなされていました。
そういったデバイスを使うことに違和感や抵抗感がなく、新しいツールで新しいことにトライしよう…という「前向な姿勢」を感じました。
その背景ともいえそうなのが現地のモバイル事情であり、マレーシア(クアラルンプール)では「スマートフォンをそのあたりの出店で売っている」という、入手の容易さがありそうです。モバイルの回線も3Gであってもストレスを感じない速さであり、WiFiの電波もあちこちで拾えました。
もちろん、カンファレンスはマレーシアだけの話ではありませんので、各国多少環境は違うでしょうが、アジア諸国で前向きな姿勢はある程度共通していると考えて良さそうです。
また、ビッグデータの発表もあり、ビッグデータを見るだけでなく、スモールデータ(個々のデータ)という発想も大事だ…といった発表もありました。
■最近目にする「IoT」

さて、今度はIT関連に視点を移します。
ビッグデータの次のキーワードとして、最近【IoT】(Internet of Things)という言葉を目にするようになりました。これは直訳すると「モノのインターネット」となり、家電・車・業務用機器など様々なものがインターネットへつながり、情報をやりとりして、相互に制御したり、利用状態のデータが緻密かつ大量に入手・利用できたりする技術です。
このあたりの話をすると、『ちょっと待った、インターネットにつながる電子レンジなど、「インターネット家電」は流行らなかった…、何をいまさら。』と苦笑いをされる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、最近では「Youtubeが見られるTV」など、さりげなくインターネットと家電の距離は縮まっています。「外出時にインターネット経由で操作できるエアコン」もボチボチ目にするようになりました。
【IoT】はIT業界の雄インテルなどが近年力を入れているという側面もありつつ、2001年からコマツの建設機械ではそういった仕組み(KOMTRAX)が実装され、機器の状況をモニタリングするなどして活用されていますので、そんなに唐突にあらわれたものではありません。
2014年の現在は、家庭用光ケーブルの高速化、LTEなど高速モバイル通信、WiFiの普及・浸透など、通信環境が整ってきていますのでそれも追い風要因となっています。
それに、【ネット家電】は「ユーザーが積極的に利用しなければならない割にメリットが少なかった」側面がありますが、【IoT】はモノ同士が自動的に情報をやり取りするので、ユーザーはむしろ負担が少なく、故障時の修理内容があらかじめメーカーで判断できるなどメリットもあります。
IoTの土台となる環境が整い、徐々に現実的になってきていることが分かります。
■リサーチとIoT

さて、「IoT」は分かったが、それがマーケティング・リサーチとどう関係するのか?という部分がポイントとなりそうです。
日記調査、行動履歴といった「実態把握の精緻化」が最も現実的な部分でしょう。洗濯機をどのモードでどの程度の水量で、水温はどの位で、何時に使ったか…といった内容は調査で聴いてもどうしてもアバウトな部分がでてしまいます。
また、「移動経路のログ」は買い物やドライブの話を聞くにはぜひ欲しい情報です。
そして、ウェラブル端末などで心拍、皮膚電気信号など、生体情報が手に入れば、何をしているときに平穏で、どういった時に幸せなのか?不安なのか?も把握できそうです。
もちろん、個人情報保護の配慮や、個々人の承諾、コスト的な問題もあり、一足飛びにそこまで行けるとは思えませんが、「限定した範囲内であれば利用できる」という方向性になるのではないか?と考えています。
例えば、店舗内に限定し、個々人の情報を消した上で、実際に買ったものとショッピングカートの動き(店内の動線やどこで立ち止まったかなど)を把握する位であれば、さほど問題はないのではないでしょうか?
遊園地内でだけ、パスポートの位置づけで生体情報の分かるリストバンドを装着してもらい、アトラクションの興奮度合いを測ることも、比較的実現しやすそうです。
■ビッグデータとIoT

そして、視点をビッグデータに移すと、リアルタイムでリッチな情報が集まるIoTは素晴らしいデータソースに思えます。
しかし、現時点では規格統一がなされておらず、一社ですべてを管理できるコマツの事例(KOMTRAX)のような状態にはまだ遠いようです。元は同じ情報であっても、各メーカーで精度やデータの取り方が異なれば、その摺合せだけでも一苦労ありそうです。
ただ、購買履歴など既存のビッグデータについても、統一された美しいデータは希少ですし、データクレンジング・名寄せの苦労は同じと言えば同じと言えそうです。
ビッグデータに取り込みやすい、できるだけ整然としたデータからIoTに手を付けるなどして、徐々にリッチな情報にしていくのが現実的なのではないでしょうか。
■IoTがあればリサーチは不要に??

もっと遠い将来の話として、IoTが安価となり世の中に普及し、機器から利用状況がリアルタイムで入手できるようになれば、マーケティングリサーチは不要になる可能性も出てきます。
例えば通行量調査、製品の利用実態調査などはIoTの方が正確になることが予想されます。(※現時点では人による情報入手の方が確実・安価なようです。)
IoTは一度情報が取得できる状態とできてしまえば、自動でデータを送信しますので協力率に悩まされることもなくなり、通年で安定してデータが取得できそうです。
その場合でも、「どういう意図でそうしたのか、どういうイメージを持っているのか?」など人間の知覚の部分までつかむのは難しいと思われますので、人の意識に関する部分は相変わらずマーケティング・リサーチの出番でしょう。
IoTで「製品Aの利用が段々と減っていき、最後の利用から1ヶ月たって突然電源がONされ、その後すぐ場所を移動し下取りされた。」「その間に他社の店舗へ行った」といった情報は手に入ることでしょう。
でも、「なぜ使わなくなったのか」、「店舗へ行ったきっかけは何か」、「他社製品は何で知ったのか」「他社にどういう印象を持っているのか」など分からないことが残っています。
「なぜと対象者に聞く程度なら自動で判断して「なぜ」という定型文を使い、コンピューターでも聞けるでしょう」という発想もありますが、曖昧な回答に対するプロービングなどもあり得ますし、問いかけの妙こそが人間らしいスキルであろうと考えています。
とはいえ、今までは拾いきれていなかった行動・状況を拾い、違う角度からのファインディングで、今とは違うリサーチのあり方が生まれる予感があり、IoTには可能性を感じています。
機器などを用いて生活の記録を取ることを「ライフログ」と言ったりしますが、割と面倒でそうそう続けやすいものではありません。IoTは面倒なライフログを自動で生成し、蓄積してくれるものであり、自分のよき理解者や、コーチとなりえる存在です。
「消費者理解にも役立つ小さいパートナーができる」そういったイメージが妥当なのかもしれません。きっとそうなった時にはIoT(アイ・オー・ティー)といったそっけない名前ではなく、もっとフレンドリーな愛称で呼ばれていることでしょう。