株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 ディレクター 牛堂雅文
■ターゲット像を考える

マーケティング・リサーチでは、この製品・サービスのターゲットは「どういった人か?」「性年代は?」「価値観としては何を大事にしているのか?」「なぜ買うのか?買わないのか?」…という「ペルソナ像」を念頭におきながら仮説や調査を組み立てることがあります。
そういうと理路整然とした印象に思えますが、実際にはむしろ【ターゲットになりきって考える】といった想像力を駆使する方法となります。
この方法、マーケティング関係者にお聞きすると、「それ、やっていますよ。」という回答を得られることが多いものの、あまり共通の呼び名がありません。
「憑依」「イタコ」など、その手の呼び方をする方もいます。名称はバラバラながら、暗黙知として用いられているスキルではないかと思います。さて、この(仮称)「憑依」と、その足を引っ張る「自分自身への認識」について議論を進めていきます。
■自分の感覚に近いケース、遠いケース

まず、店頭でよく見る食品、飲料のように比較的多くの人がターゲット層となりやすい製品は「自分」と「ターゲット層」のペルソナ像や、感覚が近いことも多くなります。自分がそれを「おいしい」と思えば、ターゲット層も「おいしい」と思うかもしれません。「パッケージがかわいい」と自分で思えばターゲット層もそう感じるかもしれません。
しかし、ターゲット層や購入者が一部に絞られるものとなると、そうもいかなくなります。どちらかというと、【自分の感覚を疑った方が良い】ようです。
具体的には、
 「自分は全く欲しくもなんともないのに、実際には購入している人がいて、リピート購入もなされている。
  棚落ちしない以上、堅実な購買がなされている。…一体どうしてなのか?」
…こういった思考法となります。
例えば、原色の組み合わせなど派手なパッケージで、内容成分がやたら盛りだくさん書かれ、値段も中途半端な「ダイエットサプリメント」があったとします。効果が出る仕組みについてもとても納得はできません。
しかし、実際に購買がなされているからには、ターゲット層を惹きつける魅力があるはずです。
例えば、
 「今までに自分が失敗した点が解消しそうに思えるコピーがある」、
 「派手な色遣いがどうにも気になりダイエットで冷静でない頭に印象が残る」、
 「ネーミングにインパクトがあり、もしや即効性がありそう?と感じる」
…など、何らかの理由があるはずです。
価格も、「安すぎると効き目が疑わしく、高すぎると買えず」のちょうどいいバランスのとれた価格なのかもしれません。
このように、自分ならまず買わない製品・サービスにも「選択される理由」があるものです。
もし、なければ既に市場から消え去っています。
■そもそも、自分はターゲット層に含まれるのか?

少し別の観点で視てみます。
あなたがクルマの広告を見て、「このクルマのデザインはひどい、こんなクルマ買うわけがない、買う人の顔を見てみたい…。」と思ったとします。さて、この瞬間何かに気がつかれたでしょうか?
そうです、「あなたはターゲット層ではなかった」可能性があるということです。
それは、全く別のタイプの人のためのクルマだったのではないでしょうか。
つまり、自分がターゲットに含まれないので、「欲しくなくて当たり前」だということです。
私のようなアラフォー以上の男性の方は比較的ご納得頂きやすいと思いますが、
 「10代後半頃はとにかくたくさん、お腹いっぱい、ガッツリ食べることが幸せ」
 「レディースランチ的な少量色々なものがあるランチは、おいしくてもやめて欲しい」
…そんな感覚があったのではないでしょうか。
しかし、段々大人になり、年齢も重ねると「こんな学生向けな量が多いだけのものなんてもう食えない…油っぽく味も単調だし…胃がもたれるよ…。」という風に評価が変わってくることがあります。
この例では、年代も変り、新陳代謝も落ち、【ターゲット層から外れた】わけです。もしそのお店が、「腹ペコ学生向けの定食屋」であれば、もう自分がターゲットではないのは明白です。
このように、自分が「欲しくない」と感じた時ほど、「では、この製品・サービスは誰のためのものなのか?」を考える必要性が出てきます。
■自分は何者か?

そのように突き詰めて考えると、【自分は何者なのか?】という自身のペルソナに話が戻ってきます。
「イノベーター理論」を交えて見るなら、自身は比較的流行に早く飛びつく「アーリーアダプター」なのか? 特定分野にアンテナを張った「イノベーター」なのか?本当になんでもよく、安心で安いものを買う「レイトマジョリティー」なのか?等と考えます。
・他の例で言えば、「デザインテイスト」で好きなものは、ナチュラルか、モダンか、トラッドか、アバンギャルドか?
・「家事・学習」などでは、つい簡単な方法に走りやすいのか?、本格的な方法にこだわるのか?、そもそも自分ではやりたくないのか?
・エネルギッシュな「肉食系」か、大人しい「草食系」か?
・生活圏は、都心か、郊外か。交通手段は電車中心か、車中心か。
こういった「自分自身」が見えてくると、
 「そりゃあターゲットじゃないだろう…趣味が合わないはずだ。」
 「このこだわり派の俺が欲しくないなんて、本格志向を狙ったならダメだな…」
 「なにそれ気になる!自分のようなミーハーの心をくすぐる製品だ!」
…といった判断がつきやすくなります。
避けるべきは、【自分の感性は正しい】という発想です。
あなたが気に入らない製品が消えずに売られ続けている(買われ続けている)時点で、あっさりこの論理は崩壊します。【感性が正しい、間違っている】ではなく、【自分は何者か?】をベースにすれば、自分がターゲット層なのかどうか立ち位置が分かり、判断もしやすくなります。
■「人となり」のストックを増やす

そして、立ち位置が分かると、「これは自分ではなく友達の○○さん向けだな」、「これはうちの父親向きだな」、「これはお客さんのツボをついているだろう」…ということが感覚的に理解しやすくなり、最初にご紹介した【自分とは異なるターゲット層のペルソナ】で考える「憑依」がしやすくなります。
この際、自分の周りの同僚、友人、家族、親戚、調査の対象者などの「人となり」がたくさん頭にストックされていると、「ああ、あの人がターゲットか」と腑に落ちやすく「憑依」にも役立ちます。
そういった「人となり」のストックを増やす意味でも、ペルソナを把握する定性調査などの手法が生きてきます。
「自分はこの製品が好きかどうか、欲しいかどうか」という考え方は出発点としてよく用いるものです。しかし、そこで留まらず、「人となり」のストックも用い、ターゲット層に「憑依」するスキルを活用して頂けますと、仮説作成、調査結果の解釈、方針の決定なども、より実感を伴うものとなることでしょう。