株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 シニアディレクター インタビュアー 梅津 順江(ウメヅ ユキエ)
梅雨の晴れ間の6月14日~15日に、日本消費者行動研究学会主催の「第48回消費者行動研究コンファレンス」があった。
一橋大学の松井剛教授と「性的役割と消費:『女子』ということばをめぐるMROC調査に基づいて」というタイトルで発表する機会があったため、「和歌山大学 栄谷キャンパス(和歌山県和歌山市)」まで遥々と足を運んだ。
「遠くまで、出向いて良かった。」「充実した2日間だった。」
ストレートだが、これが参加しての感想である。当学会の参加自体はじめてであったが、そうそうたる先生方の興味深い研究発表に多くの刺激を受けて帰ってきた。
数ある発表の中でも印象に残ったのが、「先端層の実態~聞き耳研究から見えてきたこと」という株式会社読売広告社の上野昭彦氏の発表である。
発表の素材となった「聞き耳・死神レジスタードマーク研究」は、慶應義塾大学商学部清水聰教授と読売広告社「Canvassブランド調査」との共同研究で、マイボイスコムの「キキミミパネル」のデータを用いてブランドの将来診断を検証するというもの。
キキミミパネルは、13~80歳の男女 63,300名のサンプル数で構築されており、生活者を情報感度の高い順から「はや耳」「聞き耳」「むれ耳」「そら耳(死神)」「とお耳」の5つの分類でセグメントしている。
※以下は、マイボイスコム株式会社のホームページ「キキミミ(ブランド将来診断)分析」から抜粋。
キキミミ(ブランド将来診断)分析.gif
筆者が意外に思ったのは、調査対象者が「はや耳(最先端)」ではなく、上から二番目の「聞き耳」や下から二番目の「そら耳」のデータを活用するということ。「聞き耳」や「そら耳」の割合からブランドの将来を診断したり、写真調査やデプスインタビューなどの定性調査でも「聞き耳」の活用をしたりしているというのだ。
マニア(独りよがり)になりがちな先端層「はや耳」と比べ、準先端「聞き耳」は、社会やコミュニティの関係を踏まえ、バランスのとれた行動をする。「聞き耳」は新商品を早く見つけ、商品・サービスを使いこなす工夫をする。クチコミで拡散する波及力もあるため、この層が好む商品はヒットしてロングセラーになる可能性が高い、というのである。
また、なんとなく商品を買っているだけでブランドに対する思い入れがない受動的な行動をする「そら耳」が好む商品・サービスは、市場から退出する危険性が高いため、当該層に支持されたらブランドをテコ入れするタイミングにある、という指標になっているそうだ。
要するに、「聞き耳」の購入比率が高いブランドは成長が期待でき、「そら耳」の購入比率の高いブランドはシェア減少と廃盤が懸念されるということである。
グループインタビューやデプスインタビューの後のデブリーフィングの場で「このグループは、先行指標としてみていくべき層だ」とか「この方は当カテゴリーの一般的なフォロワー層」という雑感を述べ合うことは多い。
また、MROC(Marketing Research Online Community)やブランデッドコミュニティ※1などの共創マーケティングの領域では発信力の高い順に
 「エバンジェリスト(伝道師)」
 「ロイヤルカスタマー(支援者)」
 「ファン(応援者)」
 「ゆるやかな参加(パーティシパント)」
という分類※2をするケースをよく見聞きするようになった。
いずれにしても、「どんなことが調査の目的や課題なのか」「いま開発のどの段階にいるのか」という課題やタイミングに応じて、「誰を見ていくか」を見極めることが必要なのであろう。
ブランドのファン化のための促進要素を把握するには、「愛用者」という視点に加え「聞き耳」の意識や実態が参考になりそうである。ブランドの不振要素を探るには、「中止者」「未購入者」の実態をみるだけでなく「そら耳」の行動や実態を分析することで課題が浮き彫りになりそうである。
今回の日本消費者行動研究学会の統一論題は「先端層研究:実務への応用と可能性」であり、上記はその一例に過ぎない。上野氏の発表以外にも様々な視点から先端層をみていく研究成果が発表されたが、これらの聴講は多くの視点を養う良いきっかけになり、これまでの視点とは異なる角度から設計を組み立ててみようという発想の転換にもつながった。

※1:ブランデッドコミュニティ:企業(ブランド)がインターネット上に設立する常設型のオンライン・コミュニティのこと。
※2:2011年に電通モダンコミュニケーションラボが、ソーシャルメディア時代の新しい消費行動モデル概念「SIPS」を発表。