株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
取締役フェロー 澁野 一彦
■「忘れてもよかけん。生きとかんば!」

長崎出身の漫画家岡野雄一が、施設で暮らす認知症の母との日々を、おっとりとした長崎弁でユーモラスに綴ったコミック『ペコロスの母に会いに行く』。その中で、認知症のグループホームに入った直後の母親にかけた息子(著者)の言葉である。
人は老いるほどに、物忘れが多くなる。まして認知症の人は病気が進むと、身近な配偶者や子供など大切な人まで忘れてしまう。ただし、しっかり生きてきた昔の記憶は蘇る。「死んでからの方が、うちによう会いに来る。」
既に亡くなった夫、妹、友がやってきたと幸せな母。肝心の自分(著者)は忘れられてしまったが、それでも元気でいて欲しい。それが息子の想いである。自分のはげ頭(ペコロス)を見れば 母は思い出してくれるのだが・・
この作品は、名匠森崎東によって昨年映画化され、キネマ旬報で2013年度の日本映画ベスト1に輝いた。
ぜひ多くの人に手にとってもらいたい本であり、また観てもらいたい映画である。
ペコロス.gif 出所:ペコロス岡野/西日本新聞社
65歳以上の高齢者が増加し続けている日本において、認知症はとても身近な話題である。
認知症は、特別な病気でない。長寿の国日本では、(高齢になると)誰もが罹る可能性がある。
全国の認知症の高齢者は、2012年時点で推計550万人に達する とする研究成果(福岡県久山町研究)を 九州大学のグループが昨年12月発表している。昨年6月に発表された厚労省推計では、認知症有病者は462万人だったので、約半年で90万人増えている計算になる。(以下読売新聞の記事より抜粋)
九州大学では、認知症について1985年からほぼ7年ごとに、65才以上の久山町住民を対象に調査を行っている。(久山町は、住民の年齢構成や出生率、死亡率が全国平均に近いため、ここでの調査結果は日本を代表する医学データとして国際的に評価されている)
2012年は、65才以上の94%に当たる1906人が検診。認知症の人の有病率(割合)は18%だった。この数値から認知症の高齢者数を類推した数値が550万人である。また同研究では、認知症の予備軍ともいえる軽度認知障がい(MCI)の高齢者数も310万人(比率10%)と推計しており、合計すると高齢者の3割近く(860万人)になる。
【認知症有病者率(2012年):九州大学久山町資料をより作成】
認知症有病者率(2012年).gif
この数値に見るように、高齢者にとって認知症は決して特別な病気ではない。
認知症高齢者を地域で支える~認知症高齢者とともに暮らす社会

国の財政が逼迫する中、認知症高齢者の介護は、施設から自宅(居宅サービス含む)に移行してきている。
厚労省では、「認知症の人の意思が尊重され、出来る限り住み慣れた本人に良い地域の環境で暮らし続ける」ことができるよう、認知症の普及・啓発活動を重点化するとともに、認知症本人や家族等に対する生活支援を充実させることを標榜、推進している。以下は取り組み事例。(厚労省資料より)
《 認知症普及・啓発活動例 》
認知症サポーター(オレンジリング)育成
認知症に関する正しい知識と理解を持ち、地域や職域で認知症の人や家族に対してできる範囲で手助けをする。弊社でも4年前サポーター養成講座を受講し、私を含め12名がサポーターになった。
2013年で、キャラバンメイト(養成講座の講師)を含め全国のサポ-ターは410万人まで増えている。
2025年までに、1000万人のサポーター育成を目標にしている。
・JMAでは2011年に認知症患者本人とその家族が出場した北海道のマラソンレース(第47北商ロードレース)に参加、その効果を検証する調査を実施するなど 認知症理解に向けた啓蒙活動を支援している。
《 見守り等の生活介護の取り組み強化 》
本人、家族に対する支援の取り組み→認知症カフェ
認知症カフェとは、認知症の本人、家族、専門職、地域住民など誰でも参加でき、和やかに集うカフェ。
週1~2回の頻度で開催され、場所は公民館、通所介護施設等を活用。主に介護家族の情報交換や悩み事などの相談を受け付けている。
・現在カフェは全国に広まっており、今4月末には喫茶スペース「ケアラーズカフェおれんじ」が板橋区大山にオープンした。家族や支援者でつくる8つのグループが交代しながらボランティアで運営、介護で孤立しがちな家族をサポートしている。 
オープン時には、認知障がい者本人やその家族ら約20人が来店、自宅で夫(79歳)を17年間介護している女性は夫婦で訪れ、介護の苦労などを語った。 当カフェの代表は「せきを切ったように話し出す人もいる。
気楽に相談したり、愚痴をこぼしたりすることで、介護のストレスが少しでも軽くなれば」と話す。
認知症カフェは、認知症本人、家族を支援するだけでなく、地域住民にとっても、住民同士の交流の場、認知症の理解を深める場として機能することを期待されている。

著者(ペコロス)は言う。『ボケるこつは、悪かこつばかりじゃなかぞ。』
家族にとって身内の認知症本人に寄り添って生きていくのは大変である。著者の言葉は、そんな重い気持ちをフっと軽くしてくれる。大介護時代、高齢者とともに生きていくための一つの処方便でもある。