株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
取締役フェロー 澁野 一彦
◆「大介護時代」~老いへの備えは地域から

今、日本の人口の4人に1人が65歳以上の高齢者。これが20年もすると3人に1人が高齢者という社会が訪れる。急速に高齢化が進む中で、“老いへの備え”を急がなければならないが、国の財政は逼迫、社会保障経費は、現在1000兆円を超える借金を抱える。
このような状況を憂い(?)、2000年に社会福祉法が改正され「地域福祉の推進」という条文が新たに加わった。
【社会福祉法 第4条】
地域住民、社会福祉を目的とする事業を経営する者及び社会福祉に関する活動を行う者は、相互に協力し福祉サービスを必要とする地域住民が地域社会を構成する一員として日常生活を営み、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられるように、地域福祉推進に努めなければならない
この改正では、地域住民や社会福祉関係者、民間企業の地域福祉への参加を努力義務とした
更に、次期介護保険制度見直し(案)では、介護予防の「訪問介護」と「通所介護」の地域支援事業への移行とともに、「要支援者」(165万人強)、及び「要支援・要介護状態の恐れのある者」(要支援認定者のおよそ2倍存在すると推察される)が利用する訪問型・通所型サービスの「介護予防・生活支援事業」を「新しい総合事業」として位置づけることが上申されている。
*要支援:介護保険法に基づく介護サービスを受ける際の分類のひとつで、日常生活の能力はあり、間接介助と機能訓練程度を必要とする認定区分。要介護者に比べ改善する割合も多い。平成23年で要支援認定者が1,655千人いる。
この訪問型サービスでは、民間企業やNPO、社会福祉法人などによる掃除や洗濯などの家事補助サービスや、住民ボランティアによるゴミ出し等の生活支援サービス、訪問介護事業者の身体介護など、多様な担い手による幅広い生活支援を行う。
通所型サービスでは、通所介護事業者による機能訓練等の通所介護の他、NPOや民間事業者などが運営するミニデイサービスや住民主体のサロン、リハビリや栄養・口腔ケア、運動機能改善などそれぞれの専門職が関わる教室なども提供する。
他にも単身高齢者の増加や家族の介護力の低下に対応し、配食サービスや成年後見等の在宅支援サービスが当事業に含まれる。
介護予防には地域の支えが不可欠。その担い手として地域の多様な社会資源を活用し、効果的で効率的なサービスを提供しながら、住民主体の地域づくりを促進、高齢者が要支援、要介護認定を受けなくても地域で暮らしていける社会づくりを進めていこうということである。
下に挙げたのは、「次期介護保険制度見直し(案)」を上申した厚生労働省の介護保険部会が描く、要支援者及び要支援・要介護状態の恐れのある者を対象とした「生活支援事業」のイメージである。
         表1
生活支援サービスの重層的な提供.jpg
今までの「要支援者」に対する介護給付費は2009年度で総額約4100億円にのぼる。ただその多くを「預かり型」通所サービスや「お世話型」訪問サービスに使い、いたずらに状態を悪化させて(少々言い過ぎ?)要介護に移行させるのでは本末転倒、税金の無駄遣いである。
要支援の段階で状態を改善、またその前で予防し、要介護への移行を少しでも防ぐことができれば、それだけ顧客(高齢者)の満足度も高くなり、自治体の(また国の)財政も楽になる。
(国の意向で)この介護保険改正案では、要支援の方の「訪問介護」「通所介護」は、介護給付枠から外される運命のようだが、地域で生活支援事業に取り組む事業者には、介護保険内完結型の給付金頼みの事業を見直す良い機会となるのではないかと思う。
いつまでも福祉を「公助(自治体や国の補助)」や「共助(近隣の助け合いやボランティア)」だけに頼っていては、社会全体が疲弊してしまう。民間の有償の助け(サービス)も含め、それぞれ専門のノウハウを持ち寄り、タッグを組んで高齢者の自立支援に取り組むことが、「地域福祉」に求められている。
次に挙げるのは、民間事業者の地域支援への取り組み事例である。
◆高齢者の地域支援を事業化~民間企業の備え(介護予防)の支援例

「女性だけのフィットネス」で知られる株式会社「カーブスジャパン」は、2007年に千葉県船橋市での介護予防事業受託を皮切りに、現在27都道府県の約70の自治体、約150店舗で、介護予防教室や健康づくり教室などの地域支援事業を展開している。(以下カーブス担当者へのインタビューより抜粋)
対象は要支援認定者や介護予防に積極的な高齢者。プログラムは自治体によって若干異なるが、基本は1回60~90分、週1回3か月 計12回で構成され、同社のサーキットトレーニングをベースに、転倒予防や認知症予防などの健康講和、アセスメント(体力測定)、マシンを使った運動、ストレッチなどを実践している。
この地域支援事業は、カーブスの各拠点で行われており、男女を対象にした場合は、昼休みなど一般のカーブス利用者がいない時間を充てている。
自治体からは、運動プログラムにエビデンスがある点や担当者が介護予防の重要性を理解している点、教室の明るい雰囲気(デイサービスなどの通所介護と全然異なる)を評価する声が寄せられ 概ね好評である。
現状では、市町村が設定する地域支援事業の受託費は低く、当事業自体だけでの収支はとんとんかややマイナスのようだが、このプログラムに参加した利用者の3~5割が、終了後にカーブスに入会しているというから、十分元は取れ、地域支援事業は本業のフィットネス事業の安定化にもつながっているようだ。
この事例でみるように、工夫次第で民間企業が地域福祉事業(生活支援事業)に関わるうまみは十分ある。
また介護予防サービス自体が直接的な利益にならなくても、高齢者と繋がりを持つことで様々なビジネス(あるいは本業)の拡がりが期待できる。
介護予防=いわゆる介護前の”備え”のマーケットは、介護後のマーケット(被介護需要)より格段に大きいと考えられる。
マーケティング・マインドを持った民間の事業者の活力をぜひ地域福祉に活かして頂き、福祉を良い意味での”産業”にして欲しいと思う。
次回は、地域福祉の成功事例やアプローチ方法(コミュニティ-ベースド・アプローチなど)をご紹介したいと考えている。