株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー

企画部 ディレクター 牛堂雅文

■潜在ニーズ


マーケティングリサーチのテーマとして、「潜在ニーズを探りたい」というお題を頂くことがあります。


まず、対義語として「顕在ニーズ」をご説明しますと、ハードウェアなら「もっと小さく、速く、安く、もっとカラーバリエーションを」など、食べものなら「もっと低カロリーでかつおいしく、容量を多く、個包装に、濃厚な味に」など、顧客に聞けば比較的すぐに答えられるタイプのニーズのことです。


「潜在ニーズ」は「その逆」ということですので、実はニーズがあるのに本人は聞かれてもその解決策が思いつかず、「○○が欲しい」「○○して欲しい」と答えられないものです。「まだ気が付いていないニーズ」と考えても良いでしょう。


「音楽は家で聞く」という時代に、「移動時や外出時に音楽を楽しみたい」という潜在ニーズを発掘し、商品化した「ウォークマン」が好事例と言えるでしょう。


今回はこの「潜在ニーズ」に焦点を当てたいと思います。
(※ニーズ、ウォンツという表現もありますが、本稿では混乱を防ぐためにニーズのみを持ちいます。)



■アンメットニーズ(Unmet Needs)


「潜在ニーズ」に近い言葉として「アンメットニーズ(Unmet Needs)」(未充足ニーズ)という言葉があります。医療分野で「アンメット・メディカル・ニーズ」という表現で使われることの方が多いかもしれません。


「アンメット・メディカル・ニーズ」は、未だに有効な治療方法がないニーズのことで、例えば症状を緩和する薬ではなく、「アルツハイマー症の治療薬(治療する薬はまだ無い)」、「完全に治る水虫薬」といったものを差します。


潜在か顕在かはさておき、「まだ充足されていないニーズ」のことで、マーケティングの領域で言えば、「携帯電話の充電の煩わしさから開放されたい」といった「まだ充足されていないニーズ」のことを差します。



■そもそも、なぜ「潜在ニーズ」なのか?


「顕在ニーズ」は「誰でも気がついてしまうニーズ」ともいえ、ライバル企業も気が付くため、同じような機能の競争、価格競争、スピード競争などになりやすく、せっかくニーズを製品で具現化できたとしても、他社と「差別化」しにくいのが泣き所です。


一方、「潜在ニーズ」は簡単には見いだせないことと、解釈が必要になるため人により、企業により答えが異なり、「その企業なりの答え」になりやすい、つまり「差別化」しやすいという良さがあります。



また、「アンメットニーズ」は技術的に難易度が高いものもあり、「風邪をすぐに治す薬」のようにニーズが分かったところで中々解決できないこともあります。


しかし、「潜在ニーズ」は既存技術やその応用でアプローチできるものも多く、「潜在ニーズ」の事例の「ウォークマン」は小型化の苦労はあったそうですが、4ヶ月で試作機が完成したそうです。


そのように、差別化がしやすく、既存技術の応用で達成しやすいこともあり、「潜在ニーズ」が注目されています。



また、「世の中が進歩すれば新たなニーズが生まれる」という側面もあります。自動車ができたことでエアバッグ、カーナビが作られたり、たばこへの規制が厳しくなることで電子たばこ市場が生まれたりします。(NYではさらに先へ進んだのか、電子たばこへの規制…という話もありますが)


こういった新たなニーズは最初から顕在化していたわけではないでしょう。世の中の進歩にあわせてニーズが生まれてきます。



■「潜在ニーズ」にアプローチするには?


普通にユーザーに聞いても答えを思いつかない訳ですから、この「潜在ニーズ」へのアプローチはマーケティングリサーチでも何らかの工夫をする必要があります。


ここでは、以下の2つの観点で述べていきます。


1.定量的アプローチ
2.定性的アプローチ



■1.定量的アプローチ


「潜在ニーズ」に迫る方法として、アンケートや購買履歴データなどを分析する「定量的なアプローチ」はどうでしょうか?


実施された方ならご理解いただけると思いますが、ほとんど「当たり前のこと」ばかりが発見されます。それは、まさに「顕在ニーズ」です。例えば100人に意見を聞けば、多くの人が思うことは大体「当たり前のこと」であり、「顕在ニーズ」です。


しかし、稀に違和感を感じるような回答や、不思議なパターンが発見されることがあります。データマイニングで有名な、買い物時に「ビールとおむつを同時に買うケースが見られた」という事例のような「普通に考えるとやや不自然なケース」です。

どうやら「小さい子供のいる父親が、母親に頼まれておむつを買いに行き、ついでにビールも買っていた」ということが分かり、ビールとおむつを並べて陳列したら売り上げが上がった…ということらしいです。(この事例は事実とも都市伝説とも言われていますが)


このように、定量的アプローチの場合は、無数にある「当たり前」の山をかき分けて、「潜在ニーズ」を発掘することになりますので、その苦労は推して知るべきです。


ただ、「アンメットニーズ(未充足ニーズ)」であれば、定量調査でも発見しやすいため、回答できる「不満足な点」を足掛かりに、潜在ニーズに近づく方法であれば幾分難易度は下がります。


そして何より、潜在ニーズが発見された後に量的な確認をする使い方が一般的であり、定量調査の真価を発揮しやすいのではないかと思います。



■2.定性的アプローチ


マーケティングリサーチで「潜在ニーズ」を探る際によく用いているのは「定性的アプローチ」となります。


「行動観察調査」に代表されるような、観察により非言語の部分を拾うアプローチが最もメジャーなのではないでしょうか。「デザイン思考」という言葉を聞くことも増えてきましたが、アメリカのIDEO社が用いるアプローチが有名で、アップル社の「マウス」の開発の話が代表例と言えます。


ユーザーは「コンピューターが使いづらい」とは答えられますが、まだ市場に存在しない時期に「マウスが欲しい」「こんなマウスが欲しい」とは答えられません。IDEO社の手法は徹底的な観察から始まり、解決法を見出します。


マーケティングリサーチでは、行動そのものの観察以外にも、周囲の環境、対象者のプロフィール、価値観、行動の前後の部分等も含めて把握していきます。



もし、「ウォークマン」を調査で作るとすれば、音楽好きの若者を徹底的に調査し、好きな音楽にいつも接するため、家のあちこちへラジオを持ち歩くシーンの行動観察や、通勤・通学時が手持無沙汰であるというインタビュー…あたりから、商品コンセプトが作れるだろうと思います。
(※実際には、SONYの井深大氏が「機内できれいな音で音楽が聴けるモノを作って欲しいと言った」ことから開発が始まったそうです。異例とも言えそうですが、「自身で潜在ニーズを顕在化させた」と言えそうです。セレンディピティと考えても良いでしょう。



また、保険など「無形材」で顕著であり、「観察がしにくい/観察する行動が明確でないケース」もありますので、日記調査や、デプスインタビューで対象者をしっかり理解するところから始める方法もあります。


他にも、「投影法」の活用や、ジェラルド・ザルトマン名誉教授士の提唱する「ZMET」などの手法もあり、「定性的アプローチ」では多彩な方法があるため、潜在ニーズ探索には、定性的な手法が用いられるケースが多いようです。



■デザイン思考


今回は、「潜在ニーズ」にアプローチするマーケティングリサーチの手法について述べてきました。ターゲット層を間違えていなければ、ここまでで色々なヒントが発見できているはずです。大事なのはこの後のワークショップ等で、ユーザー行動などを整理し、得られた知見から類推しニーズを見出し、共有し、アイディアを形作っていく過程です。


ライバル企業と異なる、自社ならではの製品・ソリューションを生めるかどうか、その製品が本当に消費者に受けいられるものとなっているのか、など後工程の部分がうまくいかないとどれだけ潜在ニーズ発見がうまく行っても活かしきれません。



近年、こういった取り組みの集大成ともいえる「デザイン思考」が注目されています。「デザイン思考」とは、人間中心デザインに基いたイノベーションを起こすことにも用いられる手法で、デザイナー以外も対象とした発想法です。誤解されやすいようですが、デザインの領域だけにはとどまりません。


まだ、一部への導入でとどまっている段階かもしれませんが、潜在ニーズを具現化し、製品につなげやすくするには、「デザイン思考」の活用・普及が有効だと思われます。


「潜在ニーズ」を探るマーケティングリサーチを実施されたのなら、ぜひ「デザイン思考」にも取り組んで頂き、より良い製品開発につなげて頂けますと幸いです。