株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
代表取締役社長 澁野 一彦


◆すき好んで一人暮らし~痛快無比な独居老人の生き様


独り暮らしを謳歌している快(怪)老人16人をフィーチャーした『独居老人スタイル』(都築響一著)を読んだ。
ゴッホを模した目立つ表紙カバーとともに、本の帯(腰巻き)のキャッチが、素晴らしくイカシテいる。

「ひとりで生きて、何が悪い」。独居老人=哀れな晩年? いわれなき偏見をぶち壊す
大先輩たちのマイクロ・ニルヴァーナ(涅槃の境地)。あえてひとりで暮らすこと。あえて空気を読まないこと。
それは、縮みゆくこの国で生き延びるための有効なスタイルだ。~本の帯より

負のイメージを持たれがちな「ひとり暮らしの老後」を逆手に取り、「老い」の意味さえ吹き飛ばす、16人の「独居老人」達の怪しくも逞しい生き様が痛快である。今まで抱いていた老境の概念を根底からがらりと覆される。
    《表紙カバー》
 独居老人スタイル.jpg
最初に登場するのは、自称アーティスト、あの「秋山祐徳太子」78歳。(以下抜粋引用)
グリコマンの格好して走ったり、ブリキ彫刻家として現代美術館で展覧会をしてみたり、はたまた(今回は出ていないが)都知事選に出馬したり・・・アーティストという肩書が窮屈すぎる エネルギーの塊である。
港区高輪にある都営住宅の3DKの部屋の床は、ブリキの彫刻らしき怪しい物体や書類で溢れかえる。寝床は積んだ書類の上。氏曰く、「片付けるというのは、消極的なことですよ」
ただし健康には気を使っているのか、「自炊の男」と自ら名乗り、1日3杯のお手製の野菜スープを欠かさない。「人間さ、食えてれば強いんだよね。あと、貯金がちょっとあれば。・・・金がないって愚痴ったりしたら、絶対だめですよ」。"プア充"なシニア、面目躍如である。
その他にも、
~「早く壁にぶち当たりたいんです」と言いながら、自宅の「庭劇場」で40年以上、飄々と「首くくり」演劇を続ける66歳のファンキーなアクショニスト。本の中には、実際の庭で演じられる?身体表現の写真が載っているが、あまりにも不気味なのでここでは掲載は控える。(興味がある方は、本を買って見てください)

~「同年代の友達なんて、つまらないからひとりもいない!」
と言い切る、鳥取にあるレゲイやエスニックテイストの輸入洋品雑貨店『ラスタ』のカリスマ女店主79歳。一番の仲間は50歳違い(若い)の音吉君。

~「退屈しないよ。頭の中が休んでいるヒマはないから」
と語る、早稲田松竹(名画座)のお掃除担当79歳。劇場入り口やトイレの棚などに飾ってあるファニーでキュートな手創りのオブジェを20年間作り続けている。(本のカバー裏表紙に廃品で作った彼女の作品が掲載されている)
今世の中で一番を可哀そうなのは「独居老人」ということになるらしい。しかし「独居老人」ってそんなに憐れむべき存在なのだろうか。ここで取り上げられている老人たちは、そんなに裕福ではないが、好きなものに埋もれて、ストレスなく、煩わしい人間関係もなく、『自分の好きなことを(少々度が過ぎるきらいはあるが)いつまでも手放さず楽しむ、 年齢だけがちょっと多めの元気な若者』である。
金なんか無くても、家族なんて無くても、好きなように世間を気にすることなく生きている。
◆老年を生きる「独居老人」指南~「独り力」を磨く


いまや日本人の平均寿命は、女性が86.4歳で世界一。男性も79.9歳。この超高齢化社会の中で、単身高齢世帯(独居老人世帯)が着実に増えてきている。2020年、高齢者世代では「単身世帯」が世帯構成比率でトップになり、「標準世帯」と言うことになる。

《65歳以上の世帯構成推移》

 

65歳以上の世帯構成推移.gif


ほとんどの男性が、自分一人が働きさえすれば普通に結婚して養っていけた。そのような見通しが立ったのは1960年前後の高度成長期から1990年代まで。日本の家族にとってある意味「幸せな時代」であった。
翻って今、経済が伸び悩み、自営業が衰退、雇用不安の中で、結婚しない(できない)親と同居の「パラサイトシングル」の中年が増えている。
35~44歳までの未婚者で親と同居している人は2012年で300万人強。20年~30年後、親が亡くなれば、この人たちは「独居老人」になる可能性が高い。
単身世帯を年齢別にみると、20年後(2035年)には、男性では60代が、女性では80歳以上がボリュームゾーンになる。
この状況を知ってか、来るべき将来に向けて、着々と「独り力」を磨いている40代、50代の男性がいる。所謂「中年○○オタク」達である。
先日弊社で実施した自主調査【シニアライフに関する定性調査】で、ポスト団塊(50代後半)のシングル男性2名にインタビューしたが、いずれもオタク度が高い人達であった。一人が自宅にホームシアターを持つビデオ(それも録画)オタク、もう一人が、生活のウエイト(気持ちのウエイト)でゴルフが40%を占めるゴルフマニア。
彼ら曰く「別にこっちは孤独でも何でもない。好きで独身のライフスタイルを謳歌している」~それぞれが、好きなことを優先することで「独り生きる力」を磨いている。
~再び「独居老人スタイル」より


祇園界隈で知らないと潜りと言われるほどの粋人で、映画のことをはじめあらゆる芸事に造詣が深い 京都の「舶来居酒屋いそむら」のマスター。京都生まれの京都育ちで、79歳になった今年までずっと独り身の自由人。今まで観た映画は7000本に上り、今も頼まれれば若い芸妓さんを連れて映画に行く。
一人の生活、すこぶる快調ですよ。好きなことをやって、自分に全部時間使えるんや。子供のためとか、嫁はんのためとか、時間使わんかってええわけよ。もう24時間、自分のために使えるんやもん」
彼の一日は、6時から午前2時まで仕事、2時から朝8時まで寝て、8時から夕方6時までは自由時間。25歳くらいからこの時間割で動いているという。いまは、月水金は午前中ジムに行って、後は自由時間。火木土は、映画を観て後は自由時間。日曜や定休日には、東京でも博多でも芝居を見に行く。
本当に好きな事ことだけをやり続けて、何十年もの間、生活にぶれがない。
好きな事をする為に、毎日イチローのような決まった生活パターンを繰り返す。これも「独り力」を鍛える(維持する)源泉となるようだ。
「私は野次馬です。何かあったら、とりあえず時間が合うたら見られるもんは見とこうと思う」
好きなことに欲張りな「独居老人」は、私達が今後生きていく社会の「シニア(像)」の在り方を示唆してくれる。

参照文献:「独居老人スタイル」(都築響一著)