株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 ディレクター 牛堂雅文


「時系列分析」というと、市場価格のように日々、週ごとなどで変動する数字を追う分析を差すことが多いようですが、市場調査では定点的に半年に一度、一年に一度などで実施する「○○市場定点観測調査」「時系列調査」などと呼んでいます。(他にも「ベンチマーク調査」となど、呼称は何通りかあるようです。)
「時系列調査」は消費者意識、使用・保有実態などを定点的に把握し続け、「不安意識が高まった」、「○○の保有率が下がった」、「ブランド△△の認知率が上がった」、などという傾向を追いかけていきます。
今回はこの発想はシンプルしかし悩みどころの実に多い「時系列調査」に焦点を当てたいと思います。

●設計は変えない…訳にもいかない


まず、大原則として「調査設計は変えずに、一定のままとする」ことが重要です。
調査地域、対象者条件、調査方法などは全て固定にして、純粋にデータの変動だけを追えるようにします。
しかし、「年代を59歳までにしていたが、シニア層を重視するようになったため、来年から69歳までに拡大」「関東のみで実施していたが、調査エリアを広げたい」…といった設計変更が発生することがあります。課題が変われば自ずと設計も変わります。
「59歳までの合計と、69歳までの合計の二つを作成し、今回の数字も、対前年比も見られるようにする」など、変更前後が比較しやすいように集計や分析、グラフ作成時に一工夫が必要となります。
●対象カテゴリーの変更


仮に1995年以前から「カメラ市場」の調査をしていたとすると、「フィルムカメラ」の市場に、突然現れた「デジタルカメラ」を対象に含めるべきかどうかを判断する必要があります。また「一眼レフカメラ」「コンパクトカメラ」の2分類で市場を見ていたのに突然「ミラーレス一眼」が出現し、どこに加えるか悩ましくなったりします。
(※「レフ」は「ミラー」のことを差すので「ミラーレス一眼レフ」とは言いません。)
市場の動きに合わせカテゴリーの「くくり方」を変更するのは当然ですが、本来は設計を固定したい調査であり、いつからどのように変えるのか、判断が難しいところです。
●言葉の見直し


2014年の現在において「トレンディー」という言葉を聞いて、「流行り・話題のブランド」に当てはまると感じるでしょうか? 意識を探る質問や、イメージワードで顕著な問題として、時代の変化によって「適切な言葉」が変わることがあります。
しかし、長年その言葉で聞きづづけている場合、「トレンディ」→「流行っている」と言葉を変更したとして、数字が上下したら本当に変化したのか、聞き方(言葉)の変化のせいなのか判断がつかなくなります。
ただ、市場を捉えることが命題の調査ですので、いつか変更すべきなのは間違いありませんが、いつ判断するのかが難しいところです。
●並び順の変更


順序バイアスと呼ばれ、何を先に聞き、何を後で聞くのかによって、回答に影響を与えてしまうことがあります。この順序バイアスをなくせればいいのですが、そうもいきませんので、実務上時系列調査では、毎回同様にバイアスがかかるようにするケースが多いようです。
それゆえに、聴取の順番もあまり変更しません。(バイアスを排除するため選択肢の並び順を数パターン用意して対象者によって変える場合も、そのやり方を毎回踏襲していきます。)
ただ、後付けで質問を後ろの方に追加していった結果、全体としてなんとも並び順の悪い調査票になってしまい、対象者の頭を混乱せてしまったり、回答の矛盾を生みやすくなってしまったりします。これもいつかは見直す必要があります。
●エラー修正の変更


対象者があるブランドを「持っている」のに「知らない」と回答するなどの論理的な矛盾を、集計時に「知っている」と修正するようなエラー修正のやり方があります。
本来、矛盾は対象者本人に再確認すべきですが、比較的そういったアプローチがしやすかった「訪問面接調査」が減っており、「Web調査」や「郵送調査」では、再確認自体もしにくくなっています。
上記は一例であり他にもエラー修正の例はありますが、こういったエラー修正を細かに実施している場合、エラー修正がさらなるエラー修正を発生させ、結果的に修正前後の数字の変化がそこそこ大きくなることがあります。
質問が年々増えた「時系列調査」では、あちこちで似たような質問がある事態に陥り、矛盾をまめに修正していると、気がつけば「修正しすぎ」の状態になることがあります。こうなると多少の矛盾は容認し、「修正のやり方」を見直すことになりますが、いつの時点でそう判断するのか難しいところです。
●雪だるま式の問題


このように時系列調査は、雪だるま式に問題が積み重なり、いつか変更の決断をせまられます。ただ、大先輩が始めた調査であったり、前任者の退職により経緯が不明になっていたりで変更の決断もしにくいのが実情です。
しかし、時系列調査は「市場実態を捉えること」が命題であり、今後の数年間のことも考え、「変更の決断をすべき時」があります。むしろ「問題を雪だるま式に貯めない」という発想で、早目に手を打てることは打つ…という姿勢で挑むのが良いと考えています。
●ソーシャルメディア時代の時系列調査


ここまでは伝統的調査の視点で述べましたが、今やブログ、Twitterなどのソーシャルメディアを対象に、時系列で分析をかけることも可能になっています。
ただ、ユーザーが急増したり、減少したりすることがありますし、初期ユーザーは属性などで偏りが大きくなりやすいので、「そのまま対前年比等の数字を読んでいいのか?」という疑問が発生することがあります。
Twitterは、今ではあまり増加はなさそうですが一時はユーザーが急増し、コメントが増えたとしても自然増なのか?自ブランドの活動の成果なのか?判断に困ることもありました。
安定したメディアとなれば数字が読みやすくなりますので、時系列分析時にはそのソーシャルメディア自体の利用の増減・特性などにも気を付けつつ活用したいものです。
●木も見て、森も見る


時系列調査は本来はシンプルなはずなのですが、細かな注意点が多く、判断が随所で必要となります。ただ、市場を大きな視点で捉え、潮流を読むには欠かせない調査ですので、「木も見て、森も見る」という全体最適のスタンスで利用して頂くのが良いと感じています。
iPodなどのデジタルオーディオプレーヤーが増加したタイミングでは、数%の普及が半年で倍になっており、随分驚かされたものです。広報施策によって企業イメージが数年かけて変化していき、戦略的に「次の手打ち手の判断」に活用されていったケースもあります。
時系列調査では、細かく留意・判断(木)をしつつ、各項目の数字の変化(木)から、市場全体の動向(森)を想像し、ご活用頂けますと幸いです。