株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 シニアディレクター インタビュアー 梅津 順江(ウメヅ ユキエ)


定性調査で得られた発言やコメント内容から、隠れた「気持ち・感情」「意味」を理解するのは難しい。
グループインタビューやデプス・インタビューなど、実際に対面しながらの発言であれば、表情やしぐさ、動作などから、その意味を理解したり、表現から感情を読み取ったりできることも多い。
しかし、MROC(Market Research Online Communities)などのオンラインのコミュニティでは、それらのノンバーバルコミュニケーションによる情報がないため、「言語」「文章」「言い回し表現」から、感情や意味を解釈するしかない。
例えば、「うちの妻は、女性なのに、力持ちで頼りがいがある」というコトバが発せられたとする。
一般的なテキストマイニング※1では、内容語のみ係り受け関係で取り出すので、
 ・「(うちの)妻」「女性」「力持ち」「頼りがいがある」と、単語や文節で区切り、
 ・係り受け関係を取り出すと、「妻」→「力持ち」「頼りがいがある」、「女性」→「力持ち」「頼りがいがある」となる。
しかし、ヒトが読む場合は、"表意""深意""共有認識"の3層で読み込むため、以下のように分解して解釈する。
 ・表意・・「妻」は、「力持ちで頼りがいある」(※一般のテキストマイニングと同じ)
 ・深意・・「力持ち」だが、男性ほどの力があるわけではない
 ・常識・・一般的に、「女性は力が弱いもの」
 ・認識・・「(うちの)妻」は「女性」である(※一般のテキストマイニングと同じ)
この発言から読み取れるファインディングス(Findings)※2は、以下のようなものある。

(1)発言者(夫)は、家庭を力強く守ってくれる妻を「頼れる」存在と誇らしく思っているのではないか
(2)「女性は力が弱いもの」という常識・先入観がある。
  この概念を肯定的にくつがえすことができれば、新しいタイプの「妻」を注目させることができる
(3)この新タイプの妻を「女性」という枠組みを外して認識させれば、人間としての魅力をアピールすることができる
(4)もしかすると、他者の手前「うちの妻は頼りになる」と褒めたり、自慢したりするのは恥ずかしいので、
  「力持ち」という一般的には男性に使う概念を用いて、表現したかもしれない
(5)発言者(夫)は、「(うちの)妻は気が強い」ということを皮肉って表現した?と、裏読みすることもできる

この例文「うちの妻は、女性なのに、力持ちで頼りがいがある」で注目すべき言葉は、「なのに」という接続詞。
「意味の解釈」「気持ち・感情の理解」のためには、"内容語(名詞、動詞、形容詞など)"だけでなく、"機能語(助詞、助動詞、接続詞など)"も含めて分析することが必要なのである。
潜在下にあるホンネ、つまり言葉として表出されないが、生活態度や消費行動を左右する可能性がある意識には、無自覚なものと、自覚されながら抑制もしくは省略された欲求やニーズがある。
「願望や不安などの顕在意識」は自覚かつ表出していることで、「社会的配慮から抑制された意識(良識・タテマエ・ミエ・恥により隠された不満・不安/現実不可能なため諦めたことなど)」「意図的に隠されたこと」は自覚しているが表出されていないことである。「当たり前のことだから、と省略された常識や先入観」や「生理的な欲望・性向に基づく好き嫌いや習性」は、自覚も表出もされない。
グループインタビューなどの非言語情報がある場合でも、表出されていない「良識・タテマエ・見え・恥・諦め」「意図的に隠されたこと」「当然視されていること」「生理的なこと」を読み取るのは困難である。
定性調査の解釈・分析は、人の目で読み込むしかない。残念ながら、マイニングソフトは傾向をみる補助にはなるが、意味の理解や感情を読み取ることはできないのである。
MROCなどのコミュニティリサーチ領域では、コミュニティメンバーの大規模化、長期化が進行している。それにともなって、コメント量はどんどん増えていく。筆者は最近、クラクラするくらい膨大な情報量を目の前にしたとき、"内容語"だけでなく、"機能語"に着目して発言録を読み、意味や感情を理解することを実践している。
これまで述べたように、テキストマイニングには限界があるため、今後も人の目で見て読み解いていくしかないであろう。定性情報分析の効率化をはかることは難しいのである。しかし、"機能語(助詞、助動詞、接続詞など)"の認識があるだけでも、読み込みの手助けにはなる。"機能語"をチェックすることは、大事な発見や気づきの見落としがないかという確認の意味でも有効な視点と思われる。


※1テキストマイニング(text mining):文字列を対象としたデータマイニングのこと。通常の文章からなるデータを単語や文節で区切り、それらの出現の頻度や共起関係などを解析することで有用な情報を取り出すテキストデータの分析方法のこと。「野村総研のTRUE TELLER」「プラスアルファ・コンサルティングの「見える化エンジン」「NTTデータのなずき」などのソフト製品がある
※2ファインディングス(Findings):マーケティングリサーチの結果を通じて得られた発見・気づきのこと。今回は、推論・予兆の発掘も含めている