株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
定性調査部 ディレクター インタビュアー 吉田 聖美


昨年末の話になるが、長野県の渋温泉に行ってきた。
長野駅からローカル電車とバスを乗り継いでの場所で、地元の人と宿泊者しか体験できない序著溢れる外湯巡りを楽しんだ。
渋温泉を訪れるのは初めてだったのだが、今回の旅では、長野駅から湯田中駅までの長野電鉄特急に乗るときの発車音で、まず、あれ?と思った。何とも聞きなれない、現代っぽい音楽が電車の発車音として流れる。
余談だが、音とは不思議なもので全く聞いたことがない音楽でも何となくのカテゴリー感はわかる気がする。流れてきた音楽は、少なくとも「歴史ある温泉街」「小さな地元密着型の電車」とは似つかぬものであった。
違和感を持った発車音の正体はすぐにわかった。電車の発着を案内する電光掲示板に「モンハン列車」との文字が見える。この時点では、まだモンハンとコラボした電車なのかな、というレベルでしかなかったが、温泉街に付くと、街の至るところにモンハンののぼりやポスターが貼られている。 (※モンハン = モンスターハンターというゲームの略称)

【参考】マイナビニュース モンハンと信州渋温泉が三度目のコラボ! 新たな温泉まで作った渋温泉の本気度がすごすぎる
http://news.mynavi.jp/articles/2013/08/15/monhanonsen/

電車の発車音であれ?と思い、温泉街について、あれ?こんなところにも、こんなところにもポスターが、と思い、という状況が続く。景観を損ねないデザインが採用されてはいるものの、各店舗ののれんもモンハン仕様だ。
ここまで話を進めておいてなんだが、私はモンハンは見たこともやったこともない。周りの人の話題で「ハマっている人がいるらしい」「人気があるらしい」と知っているレベルだ。コラボレーションに対して、この段階では、昔ながらの温泉郷を求めてこの場所にやってきたこともあり、少し冷めた目で見てはいたが、「特に何とも思わない」気持ちが大きかった。
が、この後、コラボに対して負の印象を持つ出来事が起こる。
渋温泉は、9つの外湯をスタンプラリーの要領で手拭いにそれぞれの外湯の場所に備え付けられたスタンプを押しながら回るのが名物なのだが、そのスタンプが通常のスタンプだけでなく、モンハン用のスタンプも備え付けられていたのだ。
宿には、湯ごとに大小のスタンプがあり、それを押して回ることを説明したポスターがあった。スタンプについては「大きいものと小さいものがある」ということしかこの時点ではわからない。外湯巡りをする時点で、街がモンハンとコラボしたイベントをしているらしい、ということはわかっていた。モンハン用のスタンプがあることはわかっていない。
中途半端な状態で情報が集まると、勝手な解釈が生まれる。外湯に行き、備え付けられているスタンプ台を目にした私は、すっかりそれが外湯めぐり用のスタンプであると解釈し、手拭いに順番に押していった。
9つのうち、5つほど押したときだろうか。ふと、同じ湯場にスタンプ台が2台あることに気づいた。最初は男湯と女湯、それぞれに備え付けられたものかと思ったが、よく見ると、ここまで打ってきたスタンプとはデザインが異なる。
古く、小さかったので、目に留まらず、存在に気づいていなかったスタンプ台の方が本来のスタンプ台であり、そこに設置してあった大小のスタンプこそ、自分が押したいと思っていたものだったのだ。
最近備え付けられたキレイで目に入りやすいモンハン仕様のスタンプばかり私は押していたのだ、ということに気づいたとき、ちょっと悔しくなった。キャラクターのスタンプを集めたかったわけではない、という気持ちになった。
きっかけとして渋温泉を知ってもらえれば、という意図はわかる。かつ、どんな動機であれ、足を延ばしてもらわなければ何も始まらない、というのも事実。ただ、コラボは、うまく実施しなければ、ブランドやキャラクターにアンチの感情もつれてくる
今回の私の場合は、「キャラクターに興味がある人はキャラクターのルートを」「そうでない人は通常のルートを」わかりやすく伝える、ということで解決できたであろう感情だが、キャラクター目当ての来訪者が多ければ多いほど、それだけでそうでない人には負の感情が生まれる可能性もある。
空間を区切る、期間・時間を区切る、わかりやすい情報伝達で混乱を避けるくらいしか浮かばないが、非常にお勧めの温泉街、共存の仕組みに考えを巡らせる出来事だった。
既存製品のリニューアル調査にも言えることだが、古くからのその製品の良さを支持するユーザーと、新しいユーザーの両方を新製品でカバーする必要性があり、その両立は常に課題になる。今回もそれに近いケースと言え、両ユーザーへの配慮の大切さを実感した旅だった。