株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー

企画部 ディレクター 牛堂雅文

「仮説は事前に立てるべきか、そうではないのか?」
近年、こういった問いかけを見かけることが増えてきています。



●西内氏の問いかけ


2013年11月29日に開催された「JMRAアニュアルカンファレンス」では、「統計学が最強の学問である」(ダイヤモンド社)の著者:西内啓氏の基調講演がありました。


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そのご講演の中で印象的だったのが、「分析に必要なのは仮説を立てるセンスであるという誤解」というお話でした。


続いてあったご説明では、「正しいかどうかを考えるとアイデアが出せなくなってしまう。女性向き商品だから購入者は女性が多いのが当たり前…と考えるとアイデアが出なくなる。正しいかどうか判断するのは統計学の役目。」とのことで、うなづく点もあり、かといって「仮説構築は悪」という話でもないと感じました。


この点についてはこれまでにも様々な議論があります。



●仮説検証型・探索型


従来型のマーケティングリサーチでは、「仮説構築」が推奨されており、それが支持されたのか、棄却されたのか?といった観点でリサーチが設計されることが多くなっています。いわゆる【仮説検証型】と言われるリサーチです。


一方、「行動観察」「ビッグデータ分析(データマイニング)」の分野では、仮説を持ってしまうこと自体がそれ以外の発見を妨げることになり、仮説なしが推奨されるケースもあります。これは【探索型】のリサーチであるとも言えます。


では、結局「仮説はあった方が良いのか、ない方が良いのか?」と気になられる方も多いのではないでしょうか。


まず、当たり障りのない回答をさせて頂くと、【仮説検証型調査】では仮説を作成し、【探索型調査】では仮説を作らず挑むという」ケース・バイ・ケースであるという回答になります。


どちらも良し悪しがあり、例えば仮説を作らず調査に挑んでしまうと、答えがはっきりしなくなってしまい、調査実施後のアクションで判断が難しくなることもあるでしょう。



●仮説と思考停止


もう少し踏み込んで考えますと、何の仮説もイメージもなく調査や分析をすることは稀で、何も仮説がないのにリサーチに何十万、何百万円というコストは中々かけられません。実際にはモヤッとしつつも、仮説やイメージがあるのが本音ではないでしょうか。
つまり、【探索型】と言っている調査では仮説がないというよりは、仮説のシャープさ、具体度が低いケースが多いと感じます。


もう一つ言えることは、今までの知見や仮説以外の要素がありそうに思われ、視野を広げ、「今までの既成概念の枠を壊したい」「イノベーションの手がかりをつかみたい」…というケースも「仮説なし」が推奨されているようです。


特に特定の商材を長く扱う、特定の業務に長年携わるといった状態が続くと、放っておいても「常識」「ありがちなパターン」「失敗事例」が関係者の考え方・視点を支配してしまい思考の幅が狭くなり、いわゆる「思考停止」が起こりがちに思われます。(もちろん、例外はあり、全員が全員ではありませんが。)



●思考の枠を外す



「発見・気づき」につながりそうなことが、「例外、異常値扱い」「無理なこと」とされてしまい、視野に入らなくなる…と言えば、共感して頂けるでしょうか。今では常識ですが、「夏におでん」、「冬にアイス」を販売することも、かつては常識はずれな行為でした。


「今まで検討から除外されてきたもの」は、そこにニーズが潜んでいたとしても黙殺されてしまいがちです。


こういった知らず知らずできる「思考の枠」を外すために「仮説を作らないこと」が推奨されます。
「一見突拍子もなく思えることにも意味はあり、ヒントになる可能性がある…常識というフィルターで早期に否定しないこと」が本質ではないかと考えています。


つまり、多少非常識に思える仮説も否定せず、許容できる心の余裕を作る意味で「仮説なし」が推奨されるものと考えています。



●作成した仮説に固執しすぎない



では、結局「仮説ありが良いのか、なしが良いのか?」という話に戻りますと、「仮説なしで何かに取り組むことはあまりないので、結局仮説は作る。しかし、それだけに固執せず、新しい発見・常識外の発想などを取りいれること」が正解ではないかと感じています。


一番避けなければならないパターンは、「こだわり研ぎ澄ました仮説を一つだけ作り、それに固執してしまい、他の貴重なヒントを見落とす」ことであり、仮説を作ること自体が間違っていると思えません。要は柔軟な思考・視点を持つことに意味があると言えそうです。


私個人のよく使う方法論として、「小さなものも含め、仮説をたくさん作る方法」があります。(これは、ブレインストーミングやワークショップでの発想をベースにしています。)仮説をたくさん作ることは視野を広げるメリットもありますが、何より「特定の仮説への固執」を減じてくれるため、考えていたことと多少違うな…と仮説の棄却や修正を受け入れやすくするメリットがあり、結局はおおよそ本命仮説通りであっても得るものが多いと感じます。


仮説構築とはうまく付き合っていくことで、有意義な発見を導きたいものです。