株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 シニアディレクター インタビュアー 梅津 順江(ウメヅ ユキエ)

プライベートの話になるが、ここ数か月、実家で遺品整理をしている。

そんな中で、学生時代に自分が綴った詩や弟が書いた日記が出てきた。長年忘れていた当時のことが走馬灯のように、よみがえってくる。


「こんなこと考えていたんだ」と懐かしく振り返ったり、「子供だったな」と苦笑いしたり・・。親に内緒にしていたことや友達には言えないようなことまで書いてある。20年以上前なので、もちろん肉筆で書(描)かれており、ワープロやパソコンによる書体ではない。誤字も多く、写真を貼ってあるページがあるので、ところどころページとページがくっついていたり、糊で文字がにじんでいる部分もある。


「今の時代なら、これらをブログで書くのだろうか?」と、思ったと同時に青ざめた。
なぜ青ざめたかというと、そもそも「テスト期間中、○○君の家へ行った後に綴ったポエム」とか「○○ちゃんと喧嘩したあとに腹が立って書いた感情」は、隠したい気持ちなのでオープンにすることなどありえないからである。


"ダイアリー(日記)"は、自分の思っていることを時系列に書き綴る点では"ブログ"との違いはないが、第三者への意識はなく、自分の日記に対して意見が欲しいという姿勢は存在しない。「閉じた空間」なのである。誤字脱字や勘違いの修正もしなくていい。


逆に"ブログ"は、「開かれた空間」。自分の書いた内容に対して、第三者に意見や共感を求める。投稿した意見や感想を通して、色々な人の考え方を知ることができ、独りよがりになりがちな自分の考えを修正することもできる。コミュニケーションが生じる点が"ブログ"の最大の魅力である。


ライター視点では、"ダイアリー(日記)"は「後で自分が読むために書くもの」、"ブログ"は「誰かに読んでもらうために書くもの」というイメージで書くことが多いと思われる。


調査視点でみると、どうであろうか。
人の目に晒される"ブログ"は、「できれば有益なことを書かなきゃいけない」という意識が働くことが弊害となる。読者を想定していない"ダイアリー(日記)"には、禁止事項がないし、格好つける必要がないので、赤裸々になりやすく、ホンネが出やすい。それは、誰も文句を言って来ないという気ままなスタンスだからである。


しかし、"ダイアリー(日記)"にはできないこともある。読者がいる"ブログ"だからこそ、自分と他者とのコミュニケーションの架け橋になり、アイデアを一緒に練り上げたり、意見を昇華させることができる。


継続性という意味でも、"ブログ"が有利であろう。前述したポエムやダイアリー(日記)は、いずれも2週間程度で終わっている。しかし、ブログ形式による日記は、1ヵ月以上続いているケースが多い。人に読んでもらう前提があったり、読んだ人から反応が期待できたりするから、続けるモチベーションにつながりやすいのではないか。


"ダイアリー(日記)"と"ブログ"の意味や違いについて深く言及すると、「ブログ≦日記」「ブログ≒オンライン上で書く日記のこと」という一般的な理解だけではないことが見えてくる。


最近、「衣食住の生活シーンの掘り下げ(生活文脈に基づいた生活情報を捉え、生活者インサイトに迫る)」「製品の使用評価や反応の抽出(ホームユーステストや違背実験*1との組み合わせ、よりリアルな利用実態に即した形での評価や感想の収集)」などをMROC(Market Research Online Communities)の日記機能を用いて行う調査案件が増えている。


従来の紙での日記調査(質問票を留め置く)*2よりリアルタイム性に優れており、実施サイドは対象者の書き込みをリアルタイムで閲覧したり、随時フィードバックが行えるからである。
しかしMROCであっても、従来調査同様「日記には"ダイアリー"と"ブログ"の2つの意味がある、役割がそれぞれ異なる、という理解をしておくこと」は大事な要点である。2つの意味や役割を分けて捉えなければ、調査設計やアウトプットを見誤ることにもなりかねない。


形式は似ていても、次元の異なる"ダイアリー"と"ブログ"。
内省的で広がりが弱く、継続性も難しい"ダイアリー"、自己抑制が働くためホンネが出にくく、ハレ場面を強調しやすい"ブログ"。それぞれの長所・短所を見極めたうえで、その時々の調査課題にあわせて使い分ける必要があるだろう。



*1(違背実験):特定の商品やブランドのユーザーに、一定期間その使用を強制的に禁止させ、禁止した際の行動や意識を深堀する定性手法。使用を中止した時のユーザーの気持ちや心理変容を分析することで当該商品の提供するベネフィットや本質的な価値を明らかにしたり、代替行動や購買スイッチを分析することで潜在的な競合を発見したりすることができる。詳細は「社会学のすゝめ 第12回」参照。


*2(従来の日記調査):調査対象者に自記入式の調査票を渡し、一定期間、毎日もしくは数日おきに行動を記録する形の調査。媒体接触状況、使用の実態、商品の購買行動を調べる調査に適している。アサツーディ・ケイの200Xファミリーデザインルーム(室長 岩村暢子氏)の「食DRIVE(食卓日記)調査」が有名。