株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 シニアディレクター インタビュアー 梅津 順江(ウメヅ ユキエ)


近年、新しいリサーチの概念として「傾聴(listening)」が提唱されている。
ユーザーの生活の中での気持ちや気づきは、「質問(asking)」だけではなく、自然な会話を「傾聴(listening)する」ことで、より発見しやすくなる、という考え方である。


「ソーシャルリスニング※1」による情報収集も当たり前になってきている。
現状把握と未来予測の手始めとして、ソーシャルメディアをマーケティングに活用し、消費者の声、社会(ソーシャル)データを傾聴することは、製品・サービスの開発・改善から宣伝広告、顧客対応まで、企業活動のすべてのプロセスにおいて有効である。



「傾聴」と訳される「リスニング(listening)」とは、何だろうか。


「きく」という言葉には、いくつかの漢字が存在するが、【デジタル大辞泉】によると、次のような意味の違いがある。
3つの「きく」を比較してみると、「聴く(listening)」の意味が浮き彫りになる。


聴く、訊く、聞く.gif

「聴く」の漢字を分解すると、「十四の心と耳」で相手の言葉を「聴く」となる。それくらい相手の言っていることを真剣に身を入れて、耳と気持ちを傾けるということである。


筆者は、「きく」ことを専門とするインタビュアーの仕事をしているが、現場での「聴く」は、相手の気持ちやホンネを理解したいときに用いることが多い。1対1で向き合うデプスインタビューでは有効だが、グループインタビューで1人に集中して「聴き」すぎると、周囲がしらけてしまうということにもなりかねないため注意が必要である。


「訊く」に関しては、どんな意味かを確認する時や突っつきたい時に用いる。「訊問」「質問」「投げかけ」とは少し異なるニュアンス、つまり「プローブ(probe※2:掘り下げ、突っ込み、確認)」と捉えれば、「訊く」もインタビューには欠かせない役割のひとつとなる。なお、インタビューで用いる場合、「掘り下げ、突っ込み」と訳されることが多いが、筆者は「言葉の真意を確認する」という意味もあると思っている。


「聞く(hearing)」に関しても、大事な要素と捉えている。インタビューにおける使い分けを紹介すると、座談会の開始前のたわいない雑談や本題に入る前の軽いテーマなどで、場をあたためるのに「聞く」を用いることが多い。


リアルの現場でインタビュアーが配慮すべきは、「リスニング(listening)」だけではなく、3つの「きく」の意味の違いを認識して、使い分けることではないか、と思う。



インタビュアーは、専門性が強い特殊技能と思われがちで、「人と話すのが苦手なので、インタビューを仕事にするなんて無理です」「人見知りするので、最初に会った方と話をするなんて、とんでもない」という方が多いが、私は決まって「無理に話す必要はありません。基本的には、きけばいいのです」と答えている。


「きく」という行為は相手を受け入れるという意味を表すため、「話す」こと以上に大切にしなければならない基本的な姿勢だと考えている。



※1:ソーシャルリスニングとは、ソーシャルメディア上にある生活者の生声に焦点を当て、トレンドの類推や自社商品に対する評判、改善点などを調査・分析を行い、業界動向把握やトレンド予測、企業・ブランド・商品に対する評価・評判の理解や改善に活かすこと。


※2:プローブ(probe)とは、インタビュアーのテクニックの1つ。「探針(たんしん)」という意味からきており、測定対象となるものに近付けて、物理的、電気的、機械的特性を測定する検出器の一部を構成する針のような形状をした部品。外科手術などで傷の深さや状態を調べるために使われる棒状の器具もプローブと呼ばれており、そこから「調べるための道具/探り針、(探り針で)傷などを調べる」「人の手が届かない狭いところや物質の内部、あるいは内部の様子が分からないものの中を探る」という意味に転じた。