株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー

企画部 ディレクター 牛堂雅文

店舗など「消費者と企業の人的な接点を持つサービス」では、サービスの品質をチェックするために、一般の利用者に扮した調査員が訪問や問い合わせをする「ミステリーショッパーズ調査」が実施されることがあります。


今回はその「ミステリーショッパーズ調査」をテーマに取り上げたいと思います。



さて、調査の話に入る前に、接するスタッフや、企業によって「どの位サービス品質が違うのか」をご理解頂くために、私の事例をお話しします。なお、本来のミステリーショッパーズ調査では【同じ会社内の各店舗での実施+他社もオプション的に実施】が基本となりますが、この例では3社での比較となっています。



●不動産会社の対応の差


最近、物件探しをしており、複数の「不動産会社の方」とお会いしました。それぞれA社、B社、C社とさせて頂きます。


なお、不動産会社を例に挙げた背景として、不動産の物件はREINS(レインズ)という業界で共通のシステムで管理されており、「どの会社でも紹介できる物件(プロダクト)はほぼ同じ」という特徴があります。そこで、【店舗までの来店への誘導】と【サービス品質の差】が勝敗を決めるため、「人的なサービス品質が大きな意味を持つ業界」となります。



・A社はやや遠方だったこともあり、「店舗」までお伺いし、そこから車でご案内いただきました。
・B社は「物件の近くで待ち合わせ」し、そこから車で移動でした。
・C社は近くだったこともあり、「自宅まで車でお出迎え」いただけました。


同じ条件でないためこの比較はあまり良くありませんが、ここだけで比べるとC社が光ります。ただ、A社は店舗ですのでドリンクサービスがあり、ドリンクが8種類くらいから選べるため、さりげなく来店が楽しいという良さがあります。



●「見せ方」の違い


そして、核心に近い話となります。REINS(レインズ)があるため、見せられる物件(プロダクト)はほぼ同じです。ですので「類似物件をどう見せるか?」「同じ物件でもどう見せるか?」という提案の差異になります。


・A社は、近い条件にある物件情報を数十位と大量に印刷し、できるだけ多くの物件を見せ、そこから好みに合う物件を選ばせる方式です。当初考えていないものも目にしますし、選択後も1日に5,6件などと精力的に回ることとなります。


・B社は、こちらが指定した物件に加え、近い物件を数件だけ提示して、興味があるかどうかを聞いてきます。あれば見に行きましょう…というソフトな提案です。指定した物件のメリット、デメリットも丁寧にご説明頂きました。


・C社は、こちらが指定した物件を案内後、1件だけ追加で案内があり、「他の物件も探せますよ。」と口頭でお伝え頂きました。


一概に勝敗はつけづらいですが、B社が一番順当に思われます。A社は広く見渡せることとができ、意外な発見もありますし、疲れもします。



そして、車で物件を回る移動時は意外と長い時間となり、顧客も対面でないこともあり多少リラックスしていますので貴重なコミュニケーションタイムでもあり、工夫の余地がある時間でもあります。A社、C社は移動中に「コンビニやトイレによりますか?」…といった配慮があります。B社は移動時間が短かったせいか、そういった配慮はなく、物件そのものの話が多かったように感じます。


さらにA社では「学校、病院、ショッピングセンターなど物件の周囲」の説明がありました。そして、「駅から物件までの行き方」を車で再現するなど、周辺環境まで含めて物件が理解できてきます。学校など教育環境以外にも、交通量の多さ、買い物環境、歩いている住民、直感的な印象の良さ、などが把握できます。


このA社の移動中の配慮は、「この物件への居住をイメージできる」という意味でかなりありがたいものでした。


このように接客のあるサービスでは、サービス品質に違いがあることがご理解頂けるのではないでしょうか。結果的に我が家ではA社で取引が進んでいます。



●ミステリーショッパーズ調査


不動産会社のミステリーショッパーズ調査の経験はありませんが、もし実施するとすれば、以下のような点でチェックを行う感じでしょうか。


1)来店誘導のスムーズさ
2)店舗の清潔さ ドリンクなどのサービス
3)説明資料関連
4)説明の的確さ
5)顧客ニーズの確認とそれに即した提案
6)車での移動中の説明・配慮
  ・物件の説明
  ・周辺環境の説明
  ・駅からのルートの案内
  ・コンビニ・トイレへの立ち寄り確認
7)物件の評価の確認
8)次回の提案
9)その他、調査員所感


実際には6)の例のように上記の大項目の下の小項目までブレークして、「やった、やらない」を判断できるようにします。主観的な要素も、できるだけ「やっていたかどうか」で判断できるよう客観的基準に変えていきます。


そして、誰でも判断できる基準を作ったら、調査員間の評価差が生じないように徹底していきます。



●本当に店舗に行ったのか?間違っていないか?


さて、ここまでは評価方法そのものの話でしたが、他にも留意点が多いのがミステリーショッパーズ調査です。特に店舗が多い企業の場合、「調査員が間違った店に行ってしまう」といったトラブルが起こりえます。


これは金融機関の例となりますが、同じ街に「渋谷支店」と「渋谷中央支店」が存在する例もありますし、業界によってはそれこそ「○○中央」「○○北」「○○南」「○○東」「○○西」など東西南北まで揃うケースすらあります。


稀に「訪問してみたら、移転していてそこに店舗がなかった…」というようなウソのような本当の話もあります。


そこで、○○店と明記された看板の写真を撮ったり、店舗印の入ったパンフレットをもらってくるなど、「そこに間違いなく行ったと分かる証拠」を押さえられるようにします。


この段階が最も気が抜けず、調査員が間違った店に行ったことが分かった場合、本人または別の調査員が本来行くべき店舗に対して再調査を実施します。実際にはさらに色々なことが起こり、逸話も実に多いのがミステリーショッパーズ調査です。



●総じて


顧客との接点は、真実の瞬間(モーメント・オブ・トゥルース(MOT))などと言われ、現場でのサービス品質の差は実に大きく、それによって購買の有無や後の不満の種が生じることもあり、顧客接点の持つ意味の大きさが分かります。


ただ、ミステリーショッパーズではどこまで行っても「顧客に扮した調査員」ですので、「単価の高いもの・解約のしにくいもの」では実際の購入・契約などをさせることが難しく、契約後の部分を捉えるのが困難です。


そういった問題もあって、顧客接点を十分にカバーしきれない可能性もありますが、「プロダクトでは差別化が難しく顧客接点にこそ大きな差別化要素がある場合」、お勧めしたい手法となります。



最後になりますが、不動産では「契約する」と口で言ってから「実際に契約する」までの期間が要注意のようで、不動産会社の方は「どうやって心変わりが起きないようにするか」に腐心しているように思えます。親・家族からの反対、「まわりに○○があった」と気が付き不安になるなど、心変わりが発生しやすく、短期間のやり取りにも「ストーリーあり」です。


かといってクロージングを焦ったり、逆にデメリットを伝えすぎると不安心をあおり契約は遠のきますので、情報をフラットにわかりやすく伝え、キチンと納得してもらった上での契約を進めるのが良いように思えます。


「フラットにわかりやすく、キチンと納得」…などと「真実の瞬間」を形成する要素は主観的なものも多いのですが、どうすれば客観的な「評価の視点」に落とせるのか知恵を絞り、できるだけ調査に反映していきたいものです。