株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 シニアディレクター インタビュアー 梅津 順江(ウメヅ ユキエ)

先日、知り合いのファイナンシャル・プランナーに「保険の見直しを考えている」と申し出て、相談に乗ってもらった。彼女によると、保険のことを意識して考える時期というのはだいたい決まっていて、その人生の節目に起こるさまざまな出来事以外のタイミングにアプローチしてもビジネスにはつながらないという。


その時期というのが、個人のライフイベントである。つまり、「受験・進学・卒業」「就職」「昇進・転職」「結婚」「出産・育児」「再就職」「離婚・再婚」「子供の就学・自立」「自分や夫の退職」「住宅取得」「親の介護」「遺産相続」などである。


このライフイベントのタイミングに動く市場は「保険や貯蓄」に限ったことではないのではないか。身近な消費であっても、人生の大きな節目となるライフイベント前後をみると、いつもと異なる消費行動がなされることが多い。




グループ・インタビューやMROC(Marketing Research Online Community)でも、ライフイベント前後の消費について深掘りするケースは数多くあるが、ライフイベント前の行動には「~しなきゃ」という発言が必ず出てくる。


以下に、ライフイベント前の消費行動「~しなきゃ」の例をいくつか挙げるが、意味や真意が異なるため、これらを英単語【must】【have to】を用いて、消費行動の真意を読み解いてみようと思う。
たしか「【must】は"命令"で【have to】は"必要性"」と教わった記憶があるが、使い分け方は分かりにくい。どちらも日本語訳では「~しなければならない」という意味で間違いなさそうだが、その裏にある意図が逆なのである。


『結婚前に、先々のことを考えて医療保険と個人年金の契約』『ウェディングドレスを着るために痩せなきゃとエステやウォーキングなどを頑張る』『子供が生まれる前にベビー商品を揃えた』などは、自ら望んでの選択(主観的な意志で行動)なので、【must】。つまり、ライフイベント前の行動が「準備しておかなきゃ」「備えておかなきゃ」という自分の内側からの圧力なので、能動的な態度となる


一方、『長い休みが取れる学生のうちに海外旅行に行っておこう』『独身時代最後のばか騒ぎに、友人がバチェロレッテ・パーティー※1を催してくれた』『出産前に子供がいけないようなリゾートホテルに泊まっておく』などは、環境による選択な(客観的な何かや誰かが原因となって行動を起こす)ので、【have to】。つまり、ライフイベント前に「いまのうちにしておかなきゃ」「悔いの残らないようにしておこう」と行動を起こさせているのが外側からの圧力なので、受動的なニュアンスとなる



否定文になると、【must】は「してはいけない」、【have to】は「しなくてよい」の意となり、その違いがより明確である。
「You must not do that.」というと、「それをしない(not do that)」ことが「主観で強く(must)」なので、結果「あなたはそれをしてはいけない」という強い意味になる。
「You don't have to do that.」というと、「しなければいけない(have to do that)」が「ない(don't)」なので、「あなたはそれをしなくてよい」といったやわらかい言い回しになる。




筆者の保険の見直しの話に戻るが、自ら能動的に保険について見つめなおそうとしたということは【must(備え)】消費のライフステージにいるのかもしれない。
現代女性のライフコース※2は、「生涯シングルで仕事を一生続ける」「子供がいない共働きのDINKS」「子供を持つが仕事も両立して続けるDEWKS」「結婚・出産時にいったん退職したが、子育て後に復職」「専業主婦」などタイプは多様である。
よって、保険や貯蓄などを見直すパターンもそれぞれ何通りもある。


これらのように、現代は個々の消費行動や変化を理解するのが難しくなっている。しかし、【must(主観・内的・能動)】と【have to(客観・外的・受動)】という真逆のイメージをつかむと、ライフコース別、ライフイベント前後の消費行動の理解の手がかりになるのではないか。



※1 バチェロレッテ・パーティー(英: Bachelorette party)とは、結婚する女性のために開かれる宴のこと。
※2 ライフコースとは、個人が一生の間にたどる道筋のこと。具体的な人生の道程、キャリア経歴のようなもの。