株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー

代表取締役社長 澁野 一彦

◆人口1~5%のマイノリティ市場に潜む上客


今4月の日経MJに 「極端サイズに商機」というタイトルの興味深い記事が掲載されていた。


衣料品で極小・極大のイレギュラーサイズを品揃えする企業が増えている。S、M、Lといった 一般店舗で取り揃えているボリュームサイズが合わず(いつも)不満を持っている消費者がターゲットで、わずか1%の体格の人向けに品揃えする企業もある。ニッチな市場で固定客をがっちりつかむ工夫は異業種にとってもヒントになりそうだ。(記事より抜粋)

西武池袋4階に、ひときわ目立つ売り場がある。3~7号(XS~Sに相当)専門の「小さいサイズ婦人服」コーナーである。2012年9月に売り場を2.4倍に拡大した。
殆どの百貨店やアパレル店舗は効率重視で、市場小さい小サイズの売り場や商品を縮小する流れにある。
西武百貨店はその逆で、同売り場は色、柄も普通サイズ(S、M、L)と同じ品ぞろえで展開し、小サイズ独自の商品も作る。昨秋以降、傘下の18店で同コーナーを拡充。売上高は平均35%増えたという。(同記事より)


今までどこへ行ってもなかなか自分にあうサイズがなかった(不満の大きかった)人たちに、その店に行けば「私のサイズがいつもある」と安心感を与えたことが、新たな顧客開拓に貢献し、固定客獲得に繋がっている。



逆に「大きめの婦人服」を他店より早くから展開しているのが伊勢丹新宿3階の「クローバーショップ」である。
伊勢丹新宿本店は今年大型改装し、売り上げが前年比10~20%増加と順調に伸びているが、特に好調だったのがこの「クローバーショップ」で、こちらも同店の全体平均を大きく上回り3割近く伸びたそうだ。


当売り場で扱うのは「13~25号」の服で、マネキンや什器(試着室など)も大ぶりにしている。並んでいる服も、通常サイズの7~13号を置く他の売り場と同様に 最先端の流行を反映した商品を品揃えしている。
改装前は「悩みの解決に主眼を置き、体系をカバーする商品を中心に提案していた」。今回の改装で目指したのは「純粋に買い物を楽しめる空間づくり」(伊勢丹バイヤー談)。


普通サイズの流行ファション売り場同様に、顧客の好みやライフスタイルに合わせた「美しくて品がある」「格好いい」「かわいい」といった3つのゾーンを作り、"買い物を楽しんでもうための売り場作り"の工夫をしている。
13号以上を所望する女性客は各店舗の商圏に1%程度という。
同売り場を年50回以上訪れる上得意客もいるとのことである。
服探しに悩みを持つ(ちょっと太め)の女性の心をうまく掴んでいるようである。



◆マス市場から取り残された"不満市場"


企業にとって多品種の個別対応は大きなコストが発生するため、非効率でなかなか実行できない。ただ逆に言えば、高いリスクだからこそどの企業も手をださないブルーオーシャンの市場であるともいえる。
またレギュラーサイズの範疇に入らない顧客からすれば 自分の欲求を満たせないため潜在的不満が大きく、未充足の市場でもある。


普段の不満が大きいため 「私のサイズがいつもある」と一度気にいってもらえば固定客になってくれる。
「あのお店には私のサイズが置いてある」という評判が広まれば、1~5%のイレギュラーサイズを欲する顧客はまず離れることはない。
このような極端サイズへの対応は、マス市場から取り残された"不満顧客"への個別対応/カスタマイズ化のヒントとなる。



以前から当メルマガで何度も取り上げているが、3000万人を超えた高齢者市場も 実はマス市場ではなく、多様な「ミクロ市場」の集合体である。したがって重要なのは、高齢者の多様な価値観に依拠する個々のミクロ市場を定義し、その不満や未充足ニーズを掬い取ることである。


ドコモの「らくらくホン」は、シリーズ化した2006年当時は3機種しか品揃えがなかった。そこから高齢者市場を徹底研究し、(一般向け同様に)品揃えを拡充、おしゃれなデザインの「らくらくホンベーシック」やワンセグ機能を付加した「らくらくホンプレミアム」、そして初のスマートフォンモデルである「らくらくスマートフォン」などを相次いで投入、市場は急拡大した。2011年に販売台数累計2000万台を超え(ドコモ発表)、当シリーズは隠れたヒット商品となっている。
これも「ニッチな市場」で固定客を掴んだ成功例である。



今回伊勢丹大改装を指揮した前新宿店長の話から
同店が目指すのは「世界のファッションストア」であるが、改装の裏テーマは「サイズ対応だった」と明かす。「クローバーショップ」の売り上げは婦人服・雑貨全体の3%程度だが、他の婦人服売り場も大きなサイズの売り場を充実させ、「おしゃれをしたい大柄な女性が諦めなくてもいいようにしたい」とのこと。


さすが「固定客(上客)を大事にする 選ばれる百貨店、伊勢丹」の面目躍如である。