株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 ディレクター 牛堂雅文
●顧客満足度調査(CS調査)



旅行・出張などでホテルに泊まる時に、「ぜひまた泊まりたい」と思うホテルと、「そうではない」ホテルがあります。レストランなどでも、「また訪れたくなる」お店と、「そうではない」お店があります。この差は一体どこから生まれるのでしょうか。



購入インターバルが短い日用雑貨では強く意識されないかもしれませんが、耐久財や、サービス業の分野では「顧客満足(CS=Customer Satisfaction)」が重視されています。


その背景にあるのは、モノ・サービスが大体行き渡ってしまい、市場規模が頭打ちになるケースが増えたこともあり、「新規顧客開拓に必要なコストは、既存顧客維持の5倍かかる」と戒められることの多い「既存顧客維持(リテンション)」の考え方です。


顧客が一生の間に購入・利用してくれる総額を表す顧客生涯価値(LTV=life time value)を最大化するため、「今のお客さまをロイヤルカスタマーにせよ!」という文脈の中で、顧客満足(CS)経営の意義が語られます。


この「CS経営」を語りだすとこの誌面では全く足りそうにありませんので、今回は顧客満足度を計測する「CS調査」に焦点を当てたいと思います。


「CS調査なんて、お客さんに【満足でしたか?】と聞けばいいだけだろう。何が難しいのか?」という疑問がもたれそうです。しかし、実際にはそこまで単純でもありません。



●CS調査の設計



なにより「満足かどうか」だけでは改善のPDCAサイクルが回せません。接客の問題か、店舗の清潔さの問題か、商品の問題か、営業時間や予約の取りにくさの問題か…こういった切り分けができないと、総合満足度を把握しても次のアクションができません。


また、設問数との絡みもありますが、顧客接点を幅広くカバーすることも求められます。「利用料金のお知らせ」、「広告」、「店舗スタッフ」「窓口」、「コールセンター」「保守サービス」など顧客接点は意外と多いものです。特に真実の瞬間(MOT=Moments of truth)と言われる、顧客の評価が形成されるところを必ず盛り込んでください。


そして、「満足度」だけではなく、「再利用意向」、「紹介推奨意向」といったキークエスチョンも必要となります。ブライダル関係のようにそうそうリピートがないものでは、「紹介推奨意向」こそが重要となりますし、リピート購入が重要な業種では、「再利用意向」が重要となります。


また、近年では他者への推奨意向を把握する【NPS(Net Promoter Score)】という11段階評価も話題となりました。



●いつ聞くのか?



「利用直後の記憶が新しいタイミング」というのが一つのチャンスではあります。しかし、ホテルのチェックアウトの慌ただしいタイミング、車でいうと実に面倒な契約を経てやっと納車されたタイミング、そういったタイミングに【ご満足頂けましたか?】と聞く余裕はあまりないものです。


そして、多少不満でも店員に面と向かって【不満です】と言える度胸のある顧客ばかりではありません。「サイレント・マジョリティー」と言われる物言わぬ多数の顧客を声を聴きださないと、一部のクレーマー的な強い意見が本流だという誤解が生じてしまいます。


そこで、利用後数週間以内等のタイミングを狙って電子メールで依頼し、Web上でCS調査を行ったり、あるいは年に一度いつと決めて郵送などでCS調査が行われます。



●結果の活用



「どこから改善するか、どう改善するか、どうやって組織に浸透させるか」などCS調査は実施後の課題も多いのが特徴です。「犯人捜し」ではなく「改善プロセスを作る」ことや、顧客満足度と対をなす「従業員満足度(ES)」、短期の成績とCS調査結果の不一致をどうするかなど、組織に根差した問題が多く、実に手ごたえのあることばかりです。


CS調査は単年度ではなく、長期的に継続して取り組むことが基本になります。「石の上にも三年」ということわざもありますが、CS調査の結果を的確に活用し、満足度向上の施策に全社的に継続して取組んでいけばCSは改善されますので、じっくり取り組むスタンスを持ってください。



●外部・環境要因



しかし、物事はそう簡単にいかないこともあります。私の経験では、ある業界で競合他社の不祥事のニュースが蔓延し、業界全体のイメージが悪化するという目も当てられない事態もありました。


一方で、イノベーティブな商品の登場により、既存商品がくすんで見えてしまうこともあります。例を挙げると、モバイル通信の分野では、高速通信であるイーモバイル登場後のAirH"(エアエッジ)の凋落は目を覆うものがありました。


顧客ロイヤリティーに重きを置く「CSの考え方」は非常に意義深いですが、外部・環境要因の影響も大きく、市場構造が変わるとCS改善の努力をどれだけしていてもCSは平気で低下してしまいます。


CS調査は、マーケティングの原点3C(Customer(市場・顧客)・Competitor(競合)・Company(自社))の中の「Customer」と「Company」に焦点を当てているという、そもそものところを忘れてはなりません。



●最後に



外部・環境要因まで含めて、少し大きな視点で「CS調査」を見てきましたが、実は現場のちょっとした気遣いが顧客心理をくすぐることがあります。


客室に置かれた気の利いた折り紙が、メニューにないサプライズのデザート一品が、お待ちいただく時の丁寧な対応が…そんな気遣いがロイヤリティを形成することがあります。


そういう「自然な顧客満足の行動」ができる組織へ変わっていくことが、CS経営の目指すところです。CS調査はどうしても数字を追ってしまいますが、その数字を読み解くことで、現場でおりなされる一件一件の「自然な顧客満足の行動」を生む組織作りの一助になれれば幸いです。