株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
定性調査部 ディレクター インタビュアー 吉田 聖美

改めての紹介ですが、私は普段、グループインタビューやデプスインタビューといった定性調査のインタビュアー(モデレーター)を業としています。この仕事について、早10年ほど経ちますが、最近、実査の現場で戸惑うことがあります。

実査時には、多くの場合、実査会場に対象者が来た後、実際のインタビューが始まるまでの間に「事前アンケート」を記入してもらっています。


この事前アンケートにはいくつかの目的があります。


1)対象者のウォーミングアップ、テーマと異なる情報の収集
ウォーミングアップも兼ね、対象者が記入しやすい家族構成、職業など事実ベースのものから構成します。
購読雑誌、趣味などはテーマとは異なる情報であってもユーザー理解を進めるための役に立つこともあります。同じカテゴリーでも、使用ブランドによって、購読雑誌の傾向が違うなど、面白い結果が出ることも。


2)面と向かって聞きにくい、言いにくい情報の収集
代表的なものは「年収」などお金に関わる質問です。


3)テーマに関わる事実を事前に把握
事前アンケートは実査が始まる前に回収しますので、テーマに関するバックグラウンドを把握した上で、インタビューに臨めることも事前アンケートの大きな役割の1つです。
また、実際のインタビューの中では、事実ベースのこと以上に「意識」や「呈示品に対する反応」に時間を割きたいこともあり、事前に記入してもらえれば事実を確認する時間を削減できることも大きなメリットです。


4)バイアスがかかる前にテーマに関わる対象者の意識を把握
定性調査で意識を聴取する場合、グループインタビューでは周りからの影響もありますし、デプスインタビューでも、インタビュー順の影響を受けます。
実はそれほど気にしていなくても、周りが皆「健康のためにカロリーを気にしている」と言えば、そういえばカロリー気になるかも、となるでしょうし、健康の話をした後で食品や飲料の選び方を聞けば、商品選択基準に健康を意識した回答が挙がるかもしれません。
そういったバイアスがかかる前の純粋な意識を把握するためにも、事前のアンケートは活用しています。




前置きが長くなりましたが、私が最近実査の現場で戸惑うことの1つがこの事前アンケートに関してなのです。

対象者に「(事前)アンケートの記入お願いします」と言って、しばらくしてから記入する様子を確認すると「スマフォで調べている?」!!


さりげなく「覚えている範囲でいいですよ」と言っては見るのですが、「漢字がわからなくて」「商品名が思い出せなくて」と調べることに未練タラタラ。気づいたときは調べない方向に誘導しているのですが、事前の打ち合わせが延びたりして事前アンケート記入時に現場にいないことも多いので、そんなときは自由に調べられているのかもしれません。


調べないで事前アンケートを記入してほしい理由は、前述した事前アンケートの目的4)に由来します。

バイアスがかかる前に意識を知りたいので、こちらとしては「商品名が思い出せない、でも、何色のパッケージでこんなマークが付いていた、は思い出せる」といったことも貴重な情報となるのですが、調べた上で正確な商品名を記入されてしまうと、その貴重な情報がなくなってしまいます。むしろ、皆商品名をきちんと把握してくれている、と間違った認識を持ってしまう危険性もあります。

この「調べるという行為の手軽化」スマートフォンが浸透するまでは見られない光景でした。さすがにパソコンを持ってきて、パソコンを広げだす人はいませんしね・・・
自分の行動を振り返っても、わからないとき、確かめたいときに「調べる」という行動を取る機会は格段に増えました。電化製品など少し金額が大きめの買い物をするときは、店頭で実際の商品を見ながら、スマフォでその商品情報を調べることも多々あります。


事前アンケート記入時に調べて書くという行動を防ぐ手段として考えられるのは、現状行っている「気づいたときに注意する」くらいです。会場に入る際に携帯等は回収してしまう、という強制手段もなくはないですが・・・ちょっと現実的ではない気がします。事前アンケートについては、調べて書かれる可能性があることも頭の隅に置いておく(あくまでも参考資料の1つに留める)ことも必要かと思います。



今後、「調べる」ことの商品決定時の重要性が高まっていくと、コンセプトを呈示して反応を取っても、「この言葉わからないけど気になるので調べてもいいですか?」なんていう反応が見られる日が来るかもしれません。


それが実際の購買行動に近いのだとしたら、例えば、消費者がネット等で調べて決定することが多いカテゴリーの商品については、「調べる」行為も意思決定までのフローに盛り込むなど、「調べる」という行為と付き合っていくことも必要になると思っています。カテゴリーによっては、「調べる」様子の観察も含め、店頭観察のウエイトが増えることもあり得ます。


モノが変わると意識が変わる、意識が変わると行動が変わる、といった変化のパワーをスマートフォンの浸透に関しては感じます。商品決定における調べることの位置づけを意識しつつ、購買意識、行動とも見つめていきたいところです。