株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 シニアディレクター インタビュアー 梅津 順江(ウメヅ ユキエ)

「調査においては、"バイアス(bias)"を掛けてはいけない。」


先日、新人の頃にメモしたノートを読み返す機会があったが、上記のように自筆で記してあった。
この口伝は、リサーチ業界に入ると基礎段階で誰もが学ぶことのひとつではないだろうか。


グループインタビューにおいて、ノンユーザーグループに当該ブランドの知識量が豊富なユーザーが入ると、バイアスや影響を与えてしまい、実態が見えづらくなるので、同グループに設計するのはタブーである。コンセプトや味覚評価においては、対象者同士がお互いのバイアスを受けないように、予め5段階尺度の評価シートに記入させてから、意見を収集することが望ましい。


教育方法や育児、衛生用品など「●●であらねばならない」という社会的正義のバイアスがかかる可能性の高いテーマには行動観察が適しているが、観察調査においても、「仮説を持つことは大事である反面、バイアス(≒思い込みや先入観)を持たずに観察すること、調査票作成時にも、バイアスを掛けず誘導しないよう、質問順や呈示順序に気をつけること・・といった具合である。


MROC(Marketing Research Online Community)のプラットフォームにおいても、バイアスアンバイアスが自由に選定できるようになっている。第一印象を確認したい評価には、多数派同調バイアス(自分以外に大勢の人がいると、取りあえず周りに合わせようとする心理状態のこと)を避けるべく、アンバイアス機能を用いる。



一般的に"バイアス"は、「偏りや歪み」「偏見や先入観」と訳されており、否定的な言葉のニュアンスがある。
リサーチ以外の領域においても、「あの人の意見にはバイアスがかかっている」と思い込みや思想から意見が偏っていることに用いられたり、「きっと大丈夫。やがて収まるだろう」と地震やテロなどの不測の事態に理性的抑制が働き、慌てないようにとした結果、被害が甚大化したり、というケースがあるようだ。


MROCが大規模・長期化する傾向にある昨今、以下のような質問や疑問を耳にすることが多くなった。


 「長いコミュニティになると、他人のバイアスをより多く受けてしまうので、正確な情報や

  本当の意味での情報伝達の把握はできないのではないか」


 「ブランドファンを用いてオープン型のコミュニティを行う数千規模のコミュニティ・パネル
  (Community Panel)では、ブランドバイアスが掛り、気持ちやロイヤリティを

  コントロールしてしまうのではないか」



筆者は、「"バイアス"が起こるのではないか」というこれらの懸念に、2つの答えを用意している。


1つは、ビジョン・クリティカル(Vision Critical)社のレイ・ポインター氏も言っているように、「All Research is subject to bias(全てのリサーチは"バイアス"を受ける。バイアスが掛らないリサーチはない)」という解である。


"バイアス"が掛るのは、MROCに限ったことではない。どんな調査であっても多少なりとも、"バイアス"は生じるのだ。
意識や行動は常に変化しているため、完全に正確な調査結果や測定結果というものは存在しないし、誤差や偏りが含まれるのが当然のことなので、"バイアス"は完全に排除することはできないのである。


もう1つは、「"態度変容"がより浮彫りになったり、情報伝播の流れや広がりが見えるのは長期MROCのメリットと捉えている」という答え。変化やきっかけが見えることこそ、利点であるという考えである。
長期化すればするほど、生活者の行動や意識変化が起こる。そこから"態度変容"の要因を見出したり、誰がどのように発した情報がどんな者に影響を与えたか、という情報伝播の流れを広範囲にみることができるのだ。


また、行動・意識の変化パターンの抽出やブランドスイッチが把握できることは、ブランド再構築の手がかりになったり、影響を及ぼしたワード発見はコミュニケーションのアイデアに直結する。



全ての調査に共通することだが、"バイアス"を一様に排除するのではなく、どのように向き合っていくかが大事なのではないかと思う。
「一定の条件で評価を行いたいのか」それとも「態度変容を見たいのか」といった実施目的を明らかにした上で、「"バイアス"の性質をよく理解し、あらかじめ予測される誤差や"バイアス"は何なのかをわきまえておく」「どのように調査/測定するのかを明らかにする」ことが重要ということなのではないか。