株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 ディレクター 牛堂雅文

今回は「温故知新」的な話題となります。実にトラディショナルで、回答の矛盾、無回答といった問題が付きまとい、調査のノウハウが多分に盛り込まれている「郵送調査」にフォーカスを当てたいと思います。


単純に言うと「調査票を郵送で送り、郵送で返送してもらう手法」であり、顧客リストなど何らかの手段で発送リストが用意できる場合に用いられます。Web調査全盛の今、あまり見かけなくなりつつありますが、BtoB調査ではいまだに現役バリバリの手法でもあります。


また、伝統的手法の中では比較的ビッグデータに近いので、多大なデータを読み込み、PCにかなりの負担をかけた経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。


一見「ただ郵送で送ればいいだけでしょ?」と思われがちですが、かなり細かく留意点があり、回収率で一喜一憂する、クレーム的なご連絡を頂くことがあるなど、大変気が抜けない手法とも言えます。



●リストの抽出方法


 全数調査の場合はあまり気にしませんが、基本は「リストからの抽出」になりますので、「どう抽出するか?」が重要になります。


といいますのも、間違って「会員番号順で上から何千件」といった抽出をすると、古い会員に偏ったり、ある地域の方に偏ったりしてバイアスがかかり、調査データをゆがめることになりかねません。実際にそういったトラブルがあり、「調査やり直し」という状況に陥ったケースを知っています。


ここでは、「サンプリングの仕方」が大きなキーとなります。元のリストに対し、乱数を用いたり、等間隔抽出等を用い、抽出後のサンプルを抽出前の全体像から偏らせないように細心の注意を払います。「層化無作為二段抽出」といった方法を用いることもあります。


また、「最近苦情のご連絡を頂いた方」など、何らかの事情で調査対象にしない方が良い方を除外し、トラブルを未然に防ぐ作業が加わることもあります。



●封筒、挨拶状


また、調査票を入れる封筒もかなり重要です。顧客リストを用いるならその企業とわかる封筒にしておかないと、「開封すらしてもらえない恐れ」があります。【アンケート在中】と入れておくなど、少しの配慮が回収率に影響します。


挨拶状は、簡潔にかつ調査の意図がきちんと伝わるものにする必要があります。
リサーチ会社が返送先となるケースでは、きちんと「リサーチ会社と契約をして個人情報を保護する対策を取っている」旨明記しておかないと、コールセンターへ問い合わせ電話が集まる羽目にもなりかねません。


また、謝礼を後からお送りする場合、謝礼の発送時期を記載しておかないとトラブルになることがあります。



●調査票作成


そして、郵送調査で「キモ」になりますのがこの過程でして、調査員による補足もできず、Webのような「必須回答」もできず、調査票の出来不出来が回答の全てを左右してしまいます。


設問のわかりやすさは元より、流れの自然さ、レイアウトの綺麗さ、フォントの選択、字の大きさ、矢印などの細かな気配り、マトリクスの罫線の太さ、とび先指示など、あらゆる点に配慮が必要です。
パンチ入力用の指示である「カラム」が必要であれば、さらにそれも加わります。


そして、郵送調査ならではの問題点として、「調査票の中での回答の矛盾」も防ぎづらく、無回答も発生しますし、レイアウトが悪かったり、質問が多すぎたりしてやる気をなくされるとすぐに回収率が低下します。


こういった問題はそうそうゼロにはできず、ある程度はやむを得ないのですが、その「ある程度」をどこまで少なくできるか?ここで力量が試されます。


●矛盾、無回答対策


王道はないのですが、まずはレイアウトや文章を理解しやすくして、不必要な回答ミスを削減するのが第一歩と言えます。そして、例えば「5ページQ12のご回答を確認の上ご記入ください。」「上記の個数の合計が、お持ちの○○の数とあっているかご確認ください。」といった注を加えるなどの手もあります。


また、対象者には期待せず集計時に矛盾を発見し、矛盾した2問のどちらかの回答に合わせる方法もあれば、「矛盾が出るのは仕方がない、下手にそこに手を入れる方が問題である」と達観し矛盾を許容する発想もあります。



無回答に関しては、レイアウト上の問題で「設問や解答欄を見落としやすい」といった点以外にも、回答者の絞り込みや、選択肢の作りこみの問題で「どれも選択できずに無回答」となるケースもあり、大抵のパターンが網羅できているか?というMECE(もれなくだぶりなく)視点でのチェックが必要となります。


いずれにせよ「Web調査のようなきれいな数字はまず出ない。」ことを念頭に置き、調査票完成後も「どこで問題が発生しそうか?」と疑ってかかる姿勢が必要になります。



●調査以外の問題点


ここまで調査そのものに関する話を述べましたが、それ以外にも注意が必要です。といいますのは、つい我々は郵送調査を「アンケート調査である」と位置付けてしまいますが、顧客からすると、その企業からの「連絡・コミュニケーションの一つ」となります。


「顧客満足度調査を実施して、むしろ満足度を下げてしまった…」そうなってしまっては本末転倒です。


そして、まだ届かない商品についての問い合わせや、住所変更の依頼、営業スタッフへ伝えるべきことをアンケート中に書くなど、各種の連絡が「アンケート」をきっかけにして発生してしまいます。
こういった問い合わせに対する情報の伝達・対応方法を定め、想定外の事態への対処も考えておく必要があります。


レアケースだと思いますが、クライアント企業以外のライバル社の製品も購入していたユーザーが、ライバル社のユーザー登録の住所変更をアンケートと一緒に返送してきたこともあり、「会社を間違えてしまう程度にしか差別化ができていないのか」…と感じさせられたこともありました。 (なお、このケースでは対象者に書類を返送しました。)



●回収率とリマインド


郵送調査では全員が回答、返送してくれることはまずありません。


この、コストへの影響も大きく、どうしても気になる点が「回収率」です。過去実績から回収率30%などと予想しても、実際にはこれを上回ったり、下回ったりします。


対象者への謝礼は回収率が高ければ増大しますし、少なければ欲しいサンプル数を確保できなくなります。想定より多くても少なくても問題なのが郵送調査の泣き所といえます。特にユーザーを何区分かして割り付けていた場合、区分ごとに回収率が違ってしまうこともままあります。


そこをコントローする唯一の手段が「リマインド(督促)」であり、ハガキ、電話などで未返送者に回答・返送を依頼します。ただ、リマインドハガキを送るにも時間・コストがかかりますし、先を読んで考える必要があります。



●最後に


郵送調査は、実にスケジュールや人手、コストのかかる調査手法であり、徐々にシュリンクしている手法の一例と言えます。しかし、そこにはリサーチのノウハウがふんだんに詰まっており、直接対象者に会わない手法にしては、対象者の反応、温度感などが伝わりやすいのが面白い点と言えます。


例えば、区分別の回収率の違いを見るだけでも、何のユーザーかでロイヤリティの違いが分かってしまいます。あるマニアックなポジショニングにある企業の調査では、回収率が妙に高く、そこから座談会への参加依頼もスムーズであり、愛されるブランドであることがヒシヒシと伝わってきました。

2013年、IT・インターネット全盛の今ですので、あまり郵送調査を実施する機会はないかもしれませんが、もし実施の機会がありましたら、この記事を思い出して何かのご参考として頂けますと幸いです。