株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 ディレクター 牛堂雅文

マーケティングリサーチというと、特定商品のユーザーや一般消費者に対するものが主流ですが、企業の課題は必ずしも「お客様や社外」にあるとは限りません。


サービス業において顕著ですが、現場の「従業員と顧客の接点」こそが「真実の瞬間」として顧客満足度に強く影響することが多く、社内に課題が潜んでいるケースもままあります。今回はインナー調査(従業員意識調査)に焦点を当てます。



以前は「モチベーションサーベイ」「モラールサーベイ」等といわれる、従業員の仕事へのモチベーションを把握する調査が多く、「どれだけ前向きに仕事に取り組んでいるのか?」「それを阻害する要因は?」といったことを把握するものが多かったように記憶しています。


そして、顧客満足度調査(CS調査)と対をなす、従業員満足度調査(ES調査)として脚光を浴びたこともあります。


しかし、景気の悪化が長期化し、成果に直結しにくい単純なモチベーションサーベイや、自虐的とすら思える従業員満足度調査(ES調査)は、肌感覚として減少傾向にあるように思えます。



●自虐的とは?


自虐的…というのは、「経営層が反省の意味を込めて調査を実施」…といったケースであり、その真摯な姿勢は素晴らしいものです。しかし、結果的に、経営層や管理職への不信、特定の部署への集中砲火といった状態となり事態を悪化させることになりかねません。取扱注意と言え、安易な実施はお勧めしかねます。


従業員意識調査のキモは、「自分及び自部門へ問いかけ、自分事化すること」「自分を起点として業務全体、会社のありかたを捉えなおすこと」にあり、決して「熾烈な批判合戦」をすることではありません。問題は相互の理解不足によることが多く、「他人、他部署のみに原因がある」と思っていると自浄的な改善は難しくなります。


一方、アンケートではなく「オフサイトミーティング」などで直接顔を合わせ、不満を吐き出し、本音でぶつかり合うような機会を設けることは、むしろポジティブに転換するために必要となることもあります。「ネガ出し」は全てNGではなく「安易に実施しない」ことがポイントといえるでしょう。




●従業員調査のパターン


そういった背景もあり、近年、従業員調査はより具体的アクションにつながりやすい以下の方向へ変貌を遂げています。では、近年ありがちなパターンを整理します。

従業員調査の5パターン.gif

(1)企業理念・ビジョンへの共感、インターナルブランディング関連
企業規模の増大や、設立からの年数の経過により、どうしても設立時の熱い思いが薄れていくため、その程度を把握し、「自社らしさ」を維持・再構築するために行われます。


世代交代やグローバリゼーションの進む中、創業時からの精神を途絶えさせないため、「創業の精神、大事にしている思い」を文章化し共有することが求められます。ジョンソン&ジョンソン、リッツカールトンの「クレド(信条)」や、日本の事例では「トヨタウェイ」が有名です。


しかし、「文章はあるけれど浸透していない/身近なものとなっていない」ケースも多々見られます。これは「クレドカードを常に持たせればいい」という単純な話ではなく、企業理念・行動指針について考えたり、議論する機会を設け、「日常業務でいうとどういうことか?」まで落ちてようやく機能しますので、腰を据えて取り掛かる必要があります。



(2)施策の浸透状況、組織の問題点の把握
きっと多くの企業で思い当る節があるでしょう。鳴り物入りの施策が思ったほど浸透・機能しない、新しいシステムを中々使ってもらえない、ルールが徹底されない、改善がすすまないといった問題があり、その状況把握に使われるケースです。


施策立案時には、「チェックできる仕組み」を最初から組み込んで「見える化」をすることも含め、PDCAの位置づけで考えておくべきでしょう。ここに関してはやや性悪説で捉え、「物事はそうそう徹底されるものではない」といった発想をベースにした方が良いと言えます。


「慣れないことはできなくて当然」くらいで捉え、すぐに罰則・厳しいルールを作成するのではなく、「自然と気がつき、できるようになる仕組み」を作ることを念頭に置くと、改善のループにつながりやすくなります。コンプライアンス・内部統制等で縛りすぎるのは要注意です。



(3)顧客満足に関する従業員意識・行動の把握
顧客満足度調査を活用されている企業では、「ポジティブ要素も、ネガティブ要素も内部に発生源がある」ということはお気づきになっていることと思います。「ESなくしてCSなし」という言葉もあります。


もちろん、販社が別会社であるなど顧客と直接接しにくいケースもありますし、「売り上げを上げているから、満足度などどうでもいいではないか」といった成果主義が阻むこともあり、中々厄介な問題もあります。


ただ、
 「自分の仕事がどのように顧客につながっているのか?」
 「分かってはいるが行動に落とせていないのではないか?」
 「顧客満足につながった成功例を知る」
など部署ごと、現場ごとに考え、具体的な打ち手につなげていくために実施・活用されています。



(4)機密の問題などで、消費者調査ができないものの代替調査
これは本来、顧客・消費者に調査をすべきものを、従業員で代替して調査を実施するものです。リサーチ会社からすると「一般消費者と意識の差が大きい従業員の評価で判断するのはいかがなものか?」と感じてしまいます。


しかし、話はそれほど単純ではなく、社内で目利き的な人を養成し、高い精度でのプロダクト評価をされているケースもあります。「絶対に社外には出せないがこのタイミングで開発者以外の目で方向性を決定したい」というやむを得ないケースもあります。後の工程での一般消費者調査も含めてズレを防ぎつつ活用したいものです。



(5)ミステリーショッパーズ(顧客のふりをした調査員による調査)
これは従業員調査としては番外編といえ、店舗、電話窓口などの接遇について顧客に扮した調査員が調査を行うものです。本題からそれますので解説を省きますが、顧客視点での気づきに有効です。




●従業員調査の留意点


社内調査は、通常のアンケート調査などと似た部分もありつつ、独自の注意点も多くなります。
特に本業で忙しい従業員にさらに回答の負担をかけてしまいます。そうなると、せっかくの声を生かせるよう、事前の十分な検討・仮説出しに加え、「なぜ実施するのか?」「リマインドはどう実施するのか?」「結果のフィードバックはどうするのか?」など情報伝達についても計画しておく必要があります。


そして、社内ゆえに調査結果がどう反映されるのか/されないのかが従業員によく見えてしまいます。調査結果は気づきの宝庫でありつつ、火種も多く潜んでいます。それゆえ、他人事ではなく自分事になるよう、部署ごとに結果をフィードバックして検討・改善してもらうなど、後の段階の設計が重要になります。



留意点も多くなりますが、従業員調査をただのモラルサーベイではなく、組織活性化に役立つ、社内を動かすドライバーとなるような有意義ものへ、そんな調査へシフトさせることで我々がお力になれれば幸いです。