株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
定性調査部 ディレクター インタビュアー 梅津 順江(ウメヅ ユキエ)

ソーシャルメディア分析やMROC(Market Research Online Communities)などのオンライン定性調査の弱点は、「Tangibility(タンジビリティ:触知できること)」のなさであり、"Depth(デプス:深さ)""Speed(スピード)"の点でオフライン定性調査に劣る。

【Tangilbility】のなさ

 ・知りたいことに、いまひとつ迫れない
 ・各人の姿や様子を生身の人間として肌で感じにくい

これは、ESOMAR QUALITATIVE 2012(2012,11,6~11,8)で発表されたドイツDanoneの一部を引用したものである。


 MROCを推し進めている者が「オンライン定性のことを悪く言うなんて・・」と思われる方もいるかもしれない。しかし、筆者は以下の"深さ"と"スピード"の点で、オンラインはオフラインにかなわないと常日頃から痛感していたので、この言葉には強く頷けた。

Depth ――オフラインではノンバーバルコミュニケーション(表情や目の動き、しぐさなど)から行間を読むことができるが、オンラインでは「絵文字」止まりである。

Speed ――オフラインでは投げかけたその場で息づかいとともに印象が得られるが、オンラインは非同期なので、質問を投げかけてから反応をもらうのに時間を要する。

これらのオンライン定性調査の弱みを徹底的にオフライン定性調査で解決してみようではないか、という実験的な調査を行った。
その名も、【Speed Dating(スピードデイティング)】。新しいコンセプト評価のカタチである。


【スピードデイト】とは、海外でよく行われている「お見合いパーティ」のことで、婚活中の者(≒対象者)がデートの相手候補(≒コンセプトの代理となるモデレーター)のブースを順番に回って質問をする形式。短い時間ではあるが、必ず全員が全てのブースにいくことになる。


L'oreal Indiaが【Speed Dating(スピードデイティング)】をコンセプト評価などのリサーチに応用した事例を日本でも実施すべく、精鋭なモデレーター4名が集まり、議論を重ねて、2013年1月20日実践に踏み切った。

手順は、以下。
1)当該カテゴリーの利用実態把握は、自記入アンケートで行う
2)対象者に調査の流れを説明し、先に全てのコンセプトを一読後、順位を記入してもらう
3)コンセプトとセットになっているモデレーターがいるブースへ移動(ローテーションあり)
4)モデレーターではなく、対象者主導でコンセプトについて感想を述べたり、質問したりする
5)一巡したら、相対評価(最終的な順位づけ)と簡易なグループインタビューを行う
6)モデレーター同士のシェアタイムを設ける。「何をどのように質問されたか?」から、コンセプト評価をデブリーフィング


試験的な実査を行い、みえたことがいくつかある。今回はその一部を紹介する。


 1)いきなり本題に入れるため、疲れたころに重要なテーマが話し合われることはない
 2)対象者はどの案に対しても、フレッシュな気持ちで各案に向き合えるので、飽きることがない
 3)過剰な深堀りなどで、情報の質を歪めることがない
 4)対象者が主体的に語らざるを得ないため、ボキャブラリーが豊富になり、情報量がリッチになった
 5)モデレーター間のデブリーフィングが有益。厚みのある定性情報がとれ、ターゲットや修正点が見えやすい


今回は、オフライン定性調査の強みに着目した実験の紹介を行ったが、オンライン定性調査にも、オフラインにはない「反復やループを許容(過去の対話に戻ったり遡ったりができる)」「ナマの生活現場での気づきやインスピレーションをその場であげてもらうことができる」「デジタルによる作業の効率化、簡略化(画像のアップ、コラージュなど)」の強みがある。
また、オンライン調査は従来調査では見つからない気づきや思いもよらない発見などがある。



冒頭に述べたように、オンライン定性調査は、スピード感がなく深さも貧弱なので、伝統的な定性調査の代替にはならない。
ただ、従来のオフライン調査では見つけられなかったインサイトを見出せたり、仮説が浮かび上がったりすることもあるので、今後は両者をブレンドすればよいと思う。


これからは、オンラインからオンラインへの流れから、「それぞれの弱点をカバー」「各々の良さを融合」の方向へシフトしていくと思われる。「オンラインだ、オフラインだ」とは言わず、課題にあったものをセレクトしてカスタマイズする方向性になるものと考えている。