株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
代表取締役社長 澁野 一彦

■「暴走老人」の正しい見かた。~「キレる」高齢者の実態


「暴走老人」という言葉が今メディアを賑わしている。
田中真紀子文科相が、東京都知事を辞職して新党結成に動き出した石原慎太郎氏を批判して使い話題になった言葉であるが、世間はこの「暴走老人」という言葉を「やんちゃで元気な老人」とどちらかといえば好意的?に受けて止めているようである。


実はこの「暴走老人」という表現は、藤原智美というノンフィクション作家が2007年出版した同名の著書が元祖である。著者はこの本の中で「キレる」高齢者の実例を挙げその原因を考察している。


もともと「キレる」という言葉は主に若者に対して使われてきた。しかし「キレる」現象はむしろ高齢者に多く見られると指摘する。



高齢者化社会に向けて社会福祉の充実が叫ばれる一方で、高齢者による"キレる"粗暴犯罪が増えている。
内閣府の発表によると暴行・障害などの粗暴犯の数は数十年前と比べて20倍。高齢者増加率に対する粗暴犯の検挙率も世界でトップだそうである。
下記は警察庁発表による、「年齢別の検挙人員の推移」である。
      

検挙人員の推移.gif

     
『暴走老人』(本)の中で著者は「キレる老人」の実例として以下のケースをあげている。


・スーパーの店頭や役所の窓口で突然相手をどなりつけて机をたたく。クレームをつけ激しく憤る。
・老人同士が殴り合う。老人が暴力事件を起こす。
・些細なことで犯罪を起こす。
・老人が性的衝動にかられ、性犯罪を引き起こす。
・老人同士が過激な政治談議をする。
・・・・・・・


先10月に起こった世田谷区の隣人トラブルが原因とされる殺人事件も加害者が86歳の老人であったことが世間に衝撃を与えた。さすがにこのような殺人事件を目の当たりすることはないが、「店頭や駅頭で係員の対応にキレる高齢者」はしばしば見かける光景である。


このような「暴走老人」が急増した原因として、人間関係の希薄化による「老人の孤独化」や「格差社会による老人世帯の貧困化の進行」が挙げられる。また今まで何度も取り上げたが、「加齢により(心身機能が衰退し)できないことに対するジレンマ」や昨今の社会秩序の崩壊やマナーの喪失なども"キレる"行動を促す背景となっている。



 ■"キレやすい"高齢化社会への対応


~交友関係の手助け~


『暴走老人』(本)の著者は言う。

「とにかく今の老人は人間関係が希薄。社会的にも孤立しており、話し相手が近所のスナックの常連だけといった人が腐るほどいます。下の世代としては、交友関係を広げてあげるよう手助けしていくことが必要です」。


今の日本の社会はかつて地域の商店街が担っていた顔なじみの店の人と会話を楽しむようなコミュニケーションがなくなっている。コンビニエンスストアや楽天市場のようなインターネットモールでは物は買えても、気持ちを通じ合わせることはできない。地域のショッピングセンターや病院、銀行など高齢者が多く集まる場所には あえて「声かけ係り」のような雑談相手の交流サービスがあってもいい。

~満たされない活動欲のケア=高齢者の活躍の場の創出~


「暴走老人」の有り余るパワーを「負ではなく正の方向」に使ってもらうことも必要である。

高齢者のパワーと活動意欲を最も満たしてくれるのは働く場を持つことであり、また働き続けることができる生涯現役社会を実現することは彼らの生活基盤となる所得はもとより(貧困化の防止にもつながり)、生きがいや健康をもたらす。


前回メルマガでも取り上げた 元気な高齢者が介護施設で同じ高齢利用者の「話し相手」や「病院の付き添い」などの支援を行う「高高支援」の取り組みも「高齢者の柔軟な働き方」の一つの提案である。
自分の生活地域に目を向ければ、防災、高齢者の見守り、また子育て支援など人手不足の分野はたくさんある。元気な高齢者はこうした分野の担い手としての役割、活躍を期待されている。


就労以外にも生きがいや自己実現を図ることができるようにするため、様々な生き方を可能とする新しい活躍の場の創出、意欲と活躍できる場の強化が必要である。雇用にこだわらない社会参加の機会として、地域ボランティアやスポーツイベントの開催など高齢者の「出番つくり」を提案していくことも高齢者の活躍の場の創出に繋がる。


~冒頭の「暴走老人」石原氏の言葉から。
「生半可なことではこの国を変えることはできない」。
約30人の出席者(同僚議員)を見渡しながら「お互いに命を張ってやろうじゃないか。私は暴走老人で走っている途中で死ぬかもしれないが、それでもいいと決心した」と。なんとも頼もしい?元気な80歳の言葉である。


続く