株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
代表取締役社長 澁野 一彦

◆CMとユニバーサルデザイン ~進む高齢化社会への対応


先日朝日新聞に「CMに字幕つけませんか」という記事が掲載されていた。
字幕を入れたCM放送が広がる兆しを見せている。高齢化に伴う難聴者の増加や、音声を再生しない視聴スタイルの広がりもあり、需要が高まりそうだと記事では書いている。


今年1月~3月にかけ、花王が生活必需品を提供しているメーカーとして「誰にもでもわかりやすい情報伝達」を目指して、字幕付きのコマーシャル(CM)を試験的に放映した。(花王ホームページより)
その時実施した聴覚障がい者を対象にしたアンケートでは、回答者の9割が「内容がよくわかった」「わかった」と回答し、視聴の評判も上々のようである。


これを機に花王はこの10月から、字幕付きコマーシャルを同社の提供番組TBS系「A-Studio」 フジTV系「TOKYOエアポート」などで流し始めた。リモコンの「字幕ボタン」を押すと映る。


2010~11年には、パナソニックやライオン、東芝も字幕付きCMを試験的に放映したそうで、進む高齢化社会の中、数々のスポンサーが注目している。



国内では、軽度の難聴を含めると聴覚障がい者は600万人いると言われている。このうち65歳以上の高齢者は約半数の300万人を占める。これは高齢者人口の10%にあたる。また音が聞き取りにくいという潜在的な難聴の高齢者を含めるとその倍近く(15~20%)になるという推計もある。



字幕CMを視聴した聴覚障がいの方へのインタビュー記事から。
「CMってこんなにたくさんの情報を流していたんだ!」「これまでCMには見向きもしなかったが字幕のおかげで意識して見るようになり、商品情報も頭に残る。店ではまずCMの商品を探す」。「字幕のつく企業への印象もよくなる」。まさに上々の広告M効果である。
高齢の方にも好評で 「年齢とともに耳が遠くなると、字幕CMが役に立つ」という声が上がっている。


アメリカでは、聴覚障がい者や海外からの渡航者への情報提供を目的に、ほぼすべての番組に字幕が付き、CMでも多くの企業が採用している。英語を第二言語とする人にも親しまれており、空港や駅などの公共施設やバーなど静かな空間で役立っているそうだ。


高齢化社会を迎え、このようなハンディキャップを持つ人が増えてくる傾向にある中で、
年齢や障がいの有無に関わらず、できるだけ多くの人に情報をわかりやすく伝えていく「情報のユニバーサルデザイン化とメディア(への易しい)アクセシビリティ」が注目されている。



◆誰でも情報を享受できる社会 ~情報のUD(ユニバーサルデザイン)化


現代社会において様々な人が「情報」に接しており、その質と量は暮らしに大きな影響を与える。


しかし社会にあふれる「情報」の提供の仕方はまだ健常人中心で、障がいを抱えている人や高齢者にとって必要な情報が簡単に得られる状況になっている訳ではない。


聴覚障がい者や高齢者に対し(先ほどの)CM情報が届かないという例に限らず、社会にあふれる情報には、デザイン、文字の大小や書体、色使いなど、あらゆる人へ正確に情報を伝える上で配慮が足りないケースも多く、不便さを感じている障がい者や高齢者は少なくない。


IT化が進む社会の中で、Webのアクセシビリティも障がい者や高齢者のための「情報のUD(ユニバーサルデザイン)化」が期待される優先分野である。少しデータが古くて恐縮だが、下記は平成15年総務省で実施した障がい者ごとのインターネットの利用率のデータである。


障がいのある方のインターネット利用率.gif

障がいを抱えた方もインターネットの利用率は非常に高いことがわかる。現在ではその数値はもっと上昇していると推察される。
また当コラムでもよく取上げるが、高齢者のインターネット利用も年々かなり進んできている。



世代別インターネット利用率(60歳以上).gif

これらデータからも、障がい者や高齢者のインターネット利用者は決して無視できる割合ではないことがわかる。またこれだけの人が、アクセシブルなWebサイトを求めているというだけでも、Webのアクセシビリティの必要性は社会の優先課題として高まっているということである。


高齢者は年々増えている。パソコンやWebサイトの利用経験、知識がないことから起こる問題は、現在仕事でパソコンやWebサイトを利用している世代が高齢者になる頃にはある程度解決されているかもしれない。


しかし、小さい文字が見えにくい、細かいボタンがクリックできない、先ほど見ていたページが思い出せないなど加齢や障がいによる身体運動機能や認知能力の低下から起こる問題は避けることが困難である。


筆者が現在携わっている「東京都福祉サービス第三者評価」では知的障がいや精神障がいの方が利用する施設を訪問し評価を実施しているが、当事業所のホームページは障がいの方やその家族が見ることを想定し、イラストを多用しできるだけ分りやすくサービスの内容を表示したり、1ページ当たりのデータサイズを極力抑えサクサク閲覧できるように工夫されている。


情報のUD(ユニバーサルデザイン)化とは、「どんな人でも必要な情報がすぐわかる」ことであり、「誰もが公平に、同じ手段・方法を利用できる」ことである。
障がい者や高齢者に限らず「すべての人が何かしらのハンディキャップ負う可能性がある」という視点の基で、情報を提供する仕組みを考えてもらいたいものである。


先ほどの字幕CMを視聴した聴覚障がいの方へのアンケートの中で「字幕があるだけで購買意欲が高まる」「字幕のつく企業への印象もよくなる」(再掲)という声が上がっていた。


誰でも同じように情報を享受する社会の実現、その配慮は、企業にとっても新たなニーズを掘り起こすビジネスチャンスになるとともに、スポンサー(企業)の社会的評価を高めることにも繋がる。


続く