株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
定性調査部 ディレクター インタビュアー 梅津 順江(ウメヅ ユキエ)

先日、ひょんなことから【寿司屋の板前(店主)】と仲良くなり、"寿司屋での隠語(符丁)"の話になった。

寿司屋では、「シャリ(すし飯)」「あがり(お茶)」「ガリ(生姜)」「ギョク(玉子焼き)」「さび(わさび)」「むらさき(お醤油)」「げそ(イカの足)」「げた(寿司をのせる台座)」などの"隠語"が多い。
もともと、寿司屋の職人や店員だけにしか通用しなかったものが、いつしか客が使うようになり、今では一般的に使われ、"隠語"としての役割を果たさなくなった。

その店主は、客が"隠語"を使うのを「あまり、いい気はしない」と言っていた。寿司屋の調理場は、客の目の前にあり、しかもたいていは他の店員が近くにいて、なおかつ注文の際に言葉のやり取りが多い。この3つの条件のうち、1つでも欠ければ"隠語"は要らないであろう。

彼は「そもそも、露骨に仕事を見せてはお客様の邪魔になる、という配慮から始まったものを、客の方がツウぶって使うのは滑稽だ」と言う。「粋でもないし、カッコ良いとも思わない」とも付け添えた。(もちろん、親近感を持って「ガリもっと要りますか?」「あがりにしますか?」と言う【寿司屋の大将】もいるので、客が使うのを認めている店主もいるということをつけ添えておく。)


そもそも、"隠語(いんご)"とは何か?

ある特定の世界や仲間内だけで通用する言葉・言い回し・専門用語のことである。
外部に秘密が漏れないようにしたり、仲間意識を高めたりするために使われ、"暗語""集団語"ともいう。
職業と結びついた"隠語"は、"業界用語"とも呼ばれる。英語の"ジャーゴン(jargon)"に相当し、用途やニュアンスによって使い分けられている。

筆者が"隠語"経験で思い出すのは、高校生の時にアルバイトしていたレストランでのこと。
アルバイトの先輩から「トイレに行く時は4番に行ってきます~、休憩を取る時は10番行ってきます~、というように。」と指導があった。やはり、他者(お客様)への配慮を考えての習慣行為であった。
その言葉を使った時、アルバイト先に対する親近感やアルバイト同士の仲間意識を感じたことを覚えている。

「KY(空気が読めない)」「JK(女子高生)」「BK(バリキモイ)」「赤マン・いちごチャン(生理中)」などの"ギャル・若者語"、「ホシ(犯人)」「シャブ(覚せい剤)」「ガサ(捜索)」などの"警察の隠語"、「おあいそう」「つゆだく」などの"飲食関係の専門用語"も同じである。


情報化社会の流れで致し方ない部分もあるが、これらの"隠語(新語)"の広がりにヒントを得た。
"MROC(Market Research Online Communities)"にも、活用できるのではないか」と、膝を打ったのである。

コミュニティを醸成する上で、一見して分かりにくい暗号を用いたり、場から生じた"新語・隠語"を多用したりするのは有効である。「○○さんの日記から、こんな面白い表現が挙がったので、皆でしばらく使ってみよう」「△△さんから、こんなテスト品の使い方の工夫がみられたので、他の方も同じように使って感想をきかせて」という要領。

"同じテーマを共有しながら出た発言""共感から生まれた旬の新語(隠語)"は、仲間意識による場の活性化だけではなく、そのカテゴリーの新たなヒントや方向を示していることもある。

不思議なことに、"新語・隠語""俗語"は、広く知れ渡り、誰もが使うようになると、"流行語""公用語""標準語"に転じていく。話の内容を一般の人には分かりにくくするために用いられた"寿司屋での隠語""警察の隠語""ギャル語"の一部も、今では一般的に使われている。

MROC(エムロック)は、まだまだ模索段階にある。
コミュニティの運営や進行上の工夫においても、さらなる試行錯誤・精査を繰り返し、独自のアイデアや道しるべを築いていきたいと思っている。「共創コミュニティ」上で、生活者と一緒に新しい価値を創造する喜びを噛みしめながら。