株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
代表取締役社長 澁野 一彦

 ◆シニアは"買い物頻度が高い"貴重な顧客


「シニア層は買い物頻度が高い大事なお客様」。大手スーパーの幹部はそう話し、高齢者向けのサービスに力を入れ始めている。(3月某日朝日新聞経済記事より)

前回の当コラムで高齢者層はインターネットビジネス(通販など)のターゲットとして有望と書いたが、高齢者層はリアルな店舗でも注力すべき顧客としてウエイトを増しているようだ。

当社で昨年実施した高齢者層(60~79歳)を対象とした調査で日常の買い物頻度を尋ねたところ、女性層では「週5日以上」買い物をする人が36%、「週3~4日以上」を含めると8割を超える。男性層でも「週5日以上」買い物をする人は13%存在、「週3~4日以上」を含めると5割弱に達する。

買い物をする時間帯もほぼ9割が決めており、顧客が減少傾向にある中で高齢者層は売上げを見込める優良なお客様である。すでにシニア向けの専門店やクリニックを併設した大型ショッピングセンターもオープンし、"買い場"は徐々に高齢者(向けに)にシフトし始めている。

売り場は順次、文字表示を大きく見やすくし、売れ筋商品が並ぶ「ゴールデンゾ-ン」も上段から2番目の棚に移すなど高齢者の加齢に伴う視線下落(瞼の重力の問題?)に合わせた売り場作りが行われている。

また同じ記事の中で、大手スーパーが「15日」をキャンペーンセール開始日にしていることを伝えている。
年金が偶数月の15日に振り込まれるからで、この日は高齢者のサイフが豊かであるというわけである。イトーヨーカドーでは、4月15日から65才以上向けの電子マネー「シニアナナコ」を使えるようにした。毎月15日にこれで商品を買うと5%割引になり、かつ毎月15日はポイントが5倍になるそうである。

単身世帯に強いコンビニエンスストアの売り場も、高齢者の夫婦世帯、独居世帯を意識し、少量の野菜やお惣菜、お弁当といった個食対応の品揃えを強化しシニア層にアピール。コンビニは居住圏に近いというアドバンテージもあり スーパーとの高齢者顧客の獲得競争に本格的に乗り出している。

◆シニア層の"買う気にならない"気分~高齢者の消費マインド


このようにスーパーやコンビニなどサービスを提供する側の施策はエスカレート気味であるが、サービスを提供される側である高齢者層の消費マインドや行動特性はどうなのか。

前回のメルマガで、高齢者に仲間入りする団塊世代は今までのシニア層に比べ貯蓄が多い(資産富裕層が多い)点を指摘したが、一方で団塊シニア層は退職年代に差し掛かるため定期的な身入りはなくなり(収入は年金が主体に)、フロー所得は激減する。 確かに資産はあるが 入ってくる収入がないため、ストックを少しずつ切り崩していく状況になる。

購買余力の面で期待されるシニア層であるが、このような状態なので実は消費支出は他の世代と比べて低下傾向になる。(家計調査より)

このため消費意識としては「無駄な出費はしない」「余計なものは買わない」「高額商品は買わない」「日常生活を切り詰める」など "買う気にならない"という気分がどんどん助長されていく。

過去経済悪化により金融資産が目減りした手痛い経験、そして加齢による健康不安、経済不安、孤独不安や介護・・・など将来の生活不安、年金問題、震災による原発問題など、不安を増幅する悪影響要因には事欠かない。自身は老化し、社会の将来に対する明るい展望が見られない中で、ストックをフローに変えることが難くなっているのが今の実態である。

◆シニア層の消費を喚起する


ではどうしたらこのような不安心理を内在しているシニア層の消費を喚起できるか。
それは高齢者層の生活変化に対応し、そこで発生するニーズを的確にキャッチアップすることである。

(1) 加齢による体力、知力の衰えに対応


悲しいかな人は加齢するに伴い、運動機能、知覚機能、認知機能などさまざまな器官や機能が衰えてくる。
このような機能の衰えを補完し、普段の(快適な)生活を維持するため、本来的意味でのエージングケアに関する意識は高まり、これまでと異なるニーズが生まれ、そこに付随する使用商品のユーザービリティの見直しやケアサービスに対する消費を誘発する。

前回も述べたように高齢者視点に配慮したインターネットのユーザビリティの再定義やアンチエージング商材の人気はその一例である。

(2) ライフステージ変化に伴う買い替え消費や住み替え、そして地消


男性は退職により、また女性は子育て完了により生活スタイルに大きな変化が生じる。
子供が独立した家庭では、家庭内の人員構成が変わり、耐久財(車や住宅)のダウンサイジング消費が進行する。

また男性は会社から家庭に居場所をシフトするため、新たな家庭内マーケット(オヤジ滞在による"不機嫌な?"内食マーケット)や地消(地域消費)マーケットが生まれてくる。シニア世代の生活の場は、家庭であり、地域社会である。はからずも地域に立地するショッピングモールは高齢者の"たまり場"としてこの役割(地消&滞在市場)を代替し始めている。

(3) 距離は短く、サービスは身近に


「遠いスーパーではなく、近場のコンビニに行くようになった」。
高齢者にとって買い物の移動距離の長さは大きな負担である。住まいに近い店舗はそれだけでベネフィットになる。また宅配サービスや移動販売も消費の距離を短くする。

チケット販売機や現金自動出入機(ATM)などの設置もシニアにとって移動時間の短縮、軽減をアピールできるサービスである。

(4) 消費する側だけでなく、提供する側(支える側)としても機能させる

前回「シニアは誰も自分をシニアと思っていない」と書いたが、ソモソモ元気なシニア層をむりやり高齢者と決め付け社会の弱者にする必要はない。現代の高齢者層はいつまでも現役志向が強い消費者である。

徳島のおばあちゃん達(70~80歳代)が料亭や旅館の料理に添える花や葉っぱを収穫し、市場に流通させるビジネスを成功させた話「おばあちゃん達の葉っぱビジネス」は有名であるが、これにより彼女たちは小額の小遣いと"生活の生きがい"を得ることができた。そしてその小遣いをフロー所得として消費に回している。

リタイヤしても、生きがいややりがいを持って社会と繋がっていたいという思いを持っている高齢者は多い。小額の対価の提供で構わないから、高齢者自身が消費を提供する側(支える側)にも参加できる仕組みを考えることは、シニア層の消費を活性化させる意味でも効果的である。

*余談であるが、彼女達は作業している山でも受注が確認できるようAndroidタブレット「GALAXY Tab」をサクサクと活用しているそうだ。必要とあらば 高齢者でもデジタル機器を使いこなせるようになれる。すごい!

◆シニア層の消費生活をデザインする


「欲しいものはたいてい持っている」のが今のシニア層の特徴である。
彼らにとって"モノ"に対する欲求は既に充足されている。
これからは既にある"モノ"をどう活かしていくか、あるいはシニア層の生活(変化)に対応しどう再生するか、浪費ではなくストックになるものをどう創り上げていくか というところに商機が生まれる。

そのためには生産するだけでなく、どう提供し、どう使ってもらうか、またどう楽しんでもらうか (またその工程にどう貢献できるか)という 新たな生活の仕方を提案・実践させていくことがこれからのマーケティングの方向である。

シニア層の加齢特性や消費性向、そしてシニアの生活視点での複雑な心理(インサイト)を多面的に理解することで、シニアを"買う気にさせる" マーケティングが初めて現実的になってくる。

続く