株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
代表取締役社長 澁野 一彦

◆好機到来?~団塊世代が高齢者マーケットへ仲間入り!


2012年からシニア世代を取り巻く環境に大きく変化が起こりそうである。
ついに約800万人いると言われる団塊世代が「65歳」からの高齢者の仲間入りをする。

かつては、「2007年問題」として「60歳」を迎える団塊世代の一斉退職による労働力の減少が懸念されたが、この時は多くの企業が何らかの形で彼らを継続雇用したため大きな問題に至らず、またサービス業界などが巨大な"金時持ち"マーケットの誕生と喧伝したが、やや期待外れに終わった。

しかし、今回は(2012年から)、団塊世代が年金を受給できる年齢(65才)に達することから、引き続き継続労働する可能性は低く、2007年当時とは様相が異なってくる。

団塊世代の特性を見ると、世帯主が60歳以上の世帯の1/3で現在貯蓄高が2,500万円以上となっていることが明らかになっており(2010年「家計調査」より)、この世代は他の世代に比べて、また今までの高齢者世代に比べても経済的に恵まれている世帯が多いという結果であった。

こう考えていくと、高齢者マーケットは"金時待ち"の消費市場として今後飛躍的に拡大する可能性を有していると言えよう。

実際業種を問わず、多くの企業がこの巨大な高齢者世代をターゲットにした商品やサービスの開発に注力し始めている。その内容は多種多様で多岐にわたるが、今回は、かつての"外食族"の走りであり「食」への関心が高い団塊世代が牽引する今後の高齢者世代の「健康で豊かな食生活」の実現にフォーカスして考えてみる。

◆高齢者世代のための「食」の生態系


~健康・長寿を担保する味覚を味わう機能
 
日本は世界一の長寿国。厚労省の統計を見ると、他人の介護を受けず生活できる期間である健康寿命が76歳。女性の平均寿命が86.4歳(2010年)であることを考えると、高齢者が自立して生活できる期間は約10年で、それ以降の10年は他の人の何らかの助けをかりて過ごす期間となる。

ボリュームが大きく今後消費のけん引役としても期待する団塊シニアが、できるだけ介護を受けず"健康な金時持ち"として活動できる時間を持つためには、彼らの「健康で豊かな食生活」の実現が重要なファクターになる。

「健康で豊かな食生活」を送るためには、好きなものが食べられ、食事が美味しく楽しいものでなくてはならない。そのためには、味覚や嗅覚や触感など美味しさをきちんと味わう五感の機能が重要である。

しかし、誰でもある年齢を超えると、加齢に伴って身体の器官や機能が衰えてくる。とくに歯の喪失による咀嚼能力の衰退は、「健康で豊かな食生活」の実現に大きな影響を及ぼす。

~高齢者にとっての「口から食べる」ことの意味~
白土三平の「カムイ伝」の中で老オオカミが若いオオカミとの戦いの中で牙(歯)を失い、自ら死を覚悟して窟の中で息絶えていくというシーンが描かれていた。
牙に関わらず、本来野生動物にとって、歯が抜けて食物を噛むことができなくなると寿命が尽きるというのが自然の理であった。

幸いにも人間は歯が抜けても生きていくことができる。義歯を入れれば再びモノをかむことが出来るし、食べやすく加工された流動食もある。また口から食べることができなくなった場合でも、チューブで必要な栄養素を直接体に送り込むこともできる。

しかし「食する」ということは、単にエネルギーや栄養を補給するためだけではなく、香りや味わい、歯ごたえ、舌触りなどの食感を楽しむ、美味しさを楽しむという喜びを人に与えてくれる。

「人間は死ぬまで食べ続ける生き物です。最後まで自分の口から食べられるように守ることは、人の尊厳を守ることです」(大久保満男 日本歯科医師会会長)

口で食べる行為は、脳をはじめいろいろな身体器官を刺激し活性化するものであり、生きているという喜びを実感させてくれる行為である。だからこそ、口から食べることを重要視し、上手に、かつ美味しい食事ができるサポートをする必要がある。

~咀嚼力を鍛え豊かな食の提案を
 
人間は高齢になると、歯が抜け始め、咀嚼能力が減少する。成人は上下28本の歯があるが、前期高齢者では平均本数はその半分になり、75歳以上の後期高齢者では平均約10本弱になるという統計がある。(厚労省「歯科疾患実態調査」より)

東京老人総合研究所では、健康寿命、健康余命を伸ばすポンイトで最も重要なのは「咀嚼力の低下を防ぐ」ことであると言っている。

逆にいえばよく噛むこと自体が、咀嚼力の低下を防ぎ、老化を防止するという効果がある。またよく噛むことは、唾液の分泌を促し消化を助ける。脳の働きを活発化し、ボケ予防にも効果もある。
また、口を動かして美味しいと思って食べることで脳を刺激し、食べる喜びが増幅される。

介護の現場では、高齢者向けの食品は、歯応えや、舌触り、喉越しなどテクスチャーが重要な要素といわれている。テクスチャーは、美味しさだけでなく、食べやすさにも関係してくるからである。

たとえ高齢者であっても、形のある素材、繊維の多いもの、ある程度歯応え、噛み応えのあるものなどを食事メニューに加え、咀嚼力を鍛えたいものである。

前回メルマガで 「シニアは自分達をシニアと思っていない」と書いたが、団塊世代も自分達を高齢者と捉えていない。しかしながら彼らの肉体にも、(考えたくないと思うが)確実に加齢による衰えが忍び寄る。

新たな高齢者層が趣味や旅行など元気に行動できるようにサポートする意味でも、まず「人間としての尊厳を損なわない食行動の継続」による「健康で豊かな食生活」の実現が不可欠であるといえる。

一足先に高齢化社会に突入した日本。世界に先駆けて「健全な高齢化社会」を創造するためには 「人間の生態・生理に根ざした高齢者の食生活」の研究・洞察が必要になってくる。