株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
代表取締役社長 澁野 一彦


「パーソン・センタード・ケア」~人それぞれの個性・キャリア を生かす


前回 「自分はシニアとは思っていない」エイジレス世代(50代以上世代)の感覚に触れたが、では彼らに対するアプローチはどのようにすればよいのか?  

この問(とい)に対する回答を導き出す上で、「パーソン・センタード・ケア(Person-Centered Care)」という介護サービスの取り組みが参考になる。

JMAでは、(以前当メルマガでも紹介した)若年認知症理解促進のための社会調査(インタビューや地域イベント参加)や介護関係のリサーチなど福祉サービス関連の調査に力を入れている。

また当社は今期東京都の福祉サービス第三者評価機関として認可を受け、特別養護老人ホームや 障害者施設など 福祉サービス施設の"情報公開とサービスの質の向上"を目的とした「第三者評価調査」を 実施している。(第三者評価調査に関しては、また別途ご紹介します。)

今介護福祉サービスは、介護保険制度の変更により 業務中心のケア(措置)から 人に力点をおいた利用者本意のケアの実現へと方針転換している。

「パーソン・センタード・ケア」はこのような方針に沿ったもので、認知症を持つ患者も"1人の人"として尊重しその人の視点や立場に立って理解しケアに生かしていこうという考え方で トム・キットウッドという英国の臨床心理学者が提唱し、現在認知症介護の現場で推奨されているケアの取り組みである。

このケアの目線は、本人ができないことをケアするネガティブケアでなく、人それぞれのキャリア、性格、社会性、志向など "その人の個性・自分らしさを尊重"してケアしていこうとする(ポジティブケア)もので、その人の個性を踏まえ、その人との関わりの中で、その人がどのように感じ、どのような体験をし、どう感じているか、周囲の人が理解し、支えることが大切であるということを説いている。

認知症で(寝たきりの)流動食しか摂れない利用者に「箸」を渡すと、実際には箸を使えないのであるが、食欲が促進し 細かった食が改善されたという事例があった。認知症患者であっても「箸」を使って食事をするという行為は長年の生活の中で刷り込まれており、人間として生きようとする本能を目覚めさせる、その人のキャリアを生かしたケアの実践である。

現実にケアの現場でこれがすべてできているとは言えないが、少なくともそういった考えを 介護サービスに生かしていこうという理念は施設経営陣の中では概ね共有されている。この考え方は、"エイジレスシニア"へのアプローチにも活用できる。

人間らしさに配慮したデザイン(UD)の切り口 ~優しい配慮


建築デザイナーの原研哉が主催した「リ・デザイン展」というプロジェクト(普段何気なく使っている日常品を、もう一度見直して新しいアプローチを試みようという企画)の中で、服飾デザイナー津村耕佑が提案している「オトナ用紙オムツ」の視点は、まさに"大人の尊厳"=「パーソン・センタード・ケア」の考え方を具現化したものである。

今の「オトナ用オムツ」は非常にコンパクトで高性能であるが、なぜか形に関しては赤ちゃん用のオムツと同じ形状のものがほとんどである。

高齢者になり自分が急に排便の調節ができなくなったら、すぐそのようなオムツを使わなければならない。
しかし自分が急に赤ちゃんみたいにオムツを着用することになったならどんな気持ちだろう。また自分の親に使われるのも非常に悲しい気持ちになるだろう。

津村のデザインした「オトナ用オムツ」は、見た目がトランクス型やショーツ型で、更にタンクトップやTシャツのようなものまで揃えた、人の体液を吸収するための"シンプルでお洒落"な「ウエア一式」を提案している。

●津村耕佑 「成人用オムツ+ウエア一式」
デザインのデザイン.jpg
*出展:原研哉著「デザインのデザイン」より

大人用の紙オムツに対する心理的な抵抗に対する使う側の気持ちを考えたまさに"人間らしさ"に配慮した仕様になっている。たかが見た目が変わっただけかも知れないが、それによって人の気持ちは大きく変わる。
人の尊厳を尊重した"優しい配慮"が感じられるデザインである。

高齢者だからこそ "~らしさ(自我)"を体現するビジュアルの視点は大事


以前弊社で実施した生活意識調査でも、60才を超える女性の日常の一番の関心事は、健康やグルメではなく「美肌」であった。年をとっても女性にとって"美"への関心は高く いつまでも"女性らしさ=女性としての自我"を持ち続けている証拠だといえよう。

また介護調査や障害者調査を実施して気がつくのであるが、(シニアを含め)身体に不具合を持ち生活に不便を感じている人こそ、逆にモノへのこだわりが強く、関わり方や所作に対して繊細である。特に障がい者や認知症の方は、一般の健常人以上に 色や形(ビジュアル)に敏感である。

人間としての尊厳を守る形状、食欲をそそる色、肌触り、香りなど目や耳、口や鼻で、人の五感を使って楽しむという視点は、シニア世代開拓のために外せない要素であると考える。

現在高齢者のいる世帯は2,000万を超え、全世帯の4割を占める。日本人の平均年齢も女性は90歳に届こうという時代である。もう決して高齢者だからということで偏った先入観をもつのではなく、少なくともニーズや志向、また感覚レベルでは "少しだけ若い君たち"となんら変わらないということを肝に銘ずべきである。

エイジレスシニア(50代以上世代)をターゲットとした商品開発は、機能だけでなく色やデザインなどの視覚的要素も切り口として有効であると考えている。