株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 牛堂雅文

文脈


コンテクスト(Context)」という言葉があります。
日本語では「文脈」と訳されることが多い概念で、マーケティングの分野では、ある製品が使用されるその時点、そのものだけを見るのではなく、その前後や背景まで含めた「文脈」が大事だという場合に使われることが多いようです。
モバイル機器を例にとると、音楽を聴くにしても自宅のベッドの中でリラックスして使うのか、満員の通勤電車の中で周りを気にしながら使うのか、ランニングのお供に使うのか、では全く「コンテクスト(文脈)」が違います。
さらに聞き慣れない言葉だと思いますが、リサーチの一手法として「コンテキスチュアル・インクワイアリー(Contextual Inquiry)法」というものがあります。自分で言っていても舌をかみそうになる名前でして、Holtzblatt, K.とBeyer, H.が考案した手法で、「師匠と弟子モデル」「文脈的質問法」とも言われています。
師匠と弟子


この「師匠と弟子」という言葉が「コンテキスチュアル・インクワイアリー法」の特徴を表しています。対象者であるユーザーはお師匠さま、インタビュアーは弟子という発想で、ユーザー(師匠)が普段通りに使う様子をインタビュアー(弟子)が見させて/語ってもらい、弟子にとって分からないことを質問していきます。
この手法は、出自の関係もあって通常のプロダクト調査よりは、Webサイトのデザイン評価で用いられることが多いようであり、主に「ペルソナ」作成の前段階に使われ、会場に来て頂くのがスタンダードです。
他にも現地に出向いて観察する「エスノグラフィー」が難しく、会場に招いて一日の行動を聞かせてもらう時などにも「コンテキスチュアル・インクワイアリー法」が用いられています。
渡辺謙や、桑田佳祐が出演したNTTドコモのCMのように、対象者にインタビュアーが一日中くっついて行動を観察させて頂けるのがベストなのですが、実際にはそうもいきませんので「コンテキスチュアル・インクワイアリー法」の出番となります。

何が違うのか


これまでのデプス・インタビューでは、仮説を元にインタビューフローをきちっと作成し、どちらかというと質問する側が主導権を持ち、どんどん質問をぶつけることで進める形式でした。最近の言葉で言えば、まさにアスキング(Asking)です。
しかし、「コンテキスチュアル・インクワイアリー法」では、インタビューフローはあまり作り込まず、流れ(コンテクスト)に沿ってインタビューを進めていき、対象者(師匠)ができるだけ自由に話せるように促します。
インタビュアー(弟子)は、傾聴・リスニング(Listening)という姿勢でインタビューを進めていきます。
「コンテキスチュアル・インクワイアリー法」は、まさに次世代マーケティングリサーチを代表する概念「リスニング(Listening)」の姿勢を持っていることも興味深いところです。
このあたり、カウンセリングで有名なカール・ロジャース(Carl Ransom Rogers, 1902- 1987)の「来談者中心療法」の発想に近いものが感じられます。
また、「コンテキスチュアル・インクワイアリー法」では口頭だけでなく、操作してもらうものは実際に操作してもらいますし、部屋や作業する場所の見取り図を書いてもらうなど、視覚的なものも重視しています。まさに「百聞は一見にしかず」です。

流れで捉える


文章での説明だけをみても「コンテキスチュアル・インクワイアリー法」は雲をつかむような感じがあり、腑に落ちにくいかもしれません。
ただ、「あなたはこの製品をどう使っていますか?」と聞いて出てきた答えでは往々にしてコンテクスト(文脈)が抜け落ちやすく、「どんなシーンで」と聞いたとしても、前後の流れ・背景を事細かに答えてもらうのは難しくなります。
そこを「流れで捉えてみよう」という発想だとお考え頂ければ良いかもしれません。
特に現在では購買や使用シーンに「リアル」と「Web」が混じり合うことも増え、どういう流れの中で、「リアル」なり、「Web」が使われるのか?…を捉えることが重要になってきています。
Webサイトのアクセスログなどで全て捉え切れればよいのですが、なかなかそうもいきません。そういう今だからこそコンテクストを把握することが重要になってきているのでしょう。