株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
代表取締役社長 澁野 一彦

混迷の時代のコンセプトは、「大きな価値」への貢献


最近の時代の変化の激しさには、驚くばかりである。
つい1年前あれだけ期待を持って迎えられた民主党への政権交代も、今は失速状況である。
また、海外ではチュニジアから始まった民主化の波が中東全体に拡大している。
言論統制が厳しいイスラム社会とは対極にある文明(欧米)の新しい情報ツールであるフェイスブックによって 中東の民衆の不満が、一気に解き放たれた。
この最新のメディアの影響もあり、ここ1年ほどの間に世の中の空気は一変したように感じる。
そして今日本では、社会全体が根底から揺らいでいるという感覚。
身近な食品の安全性の問題から、政治の不信に至るまで、すべてが猜疑心の中で進行し、庶民=生活者の不安はマックスまで拡大している。
そんな中で企業のコミュニケーションが、商品から一歩引いて ベーシックな価値である安心・安全や幸福・生命・健康・社会・環境といった「大きな価値=上位概念への貢献」を志向し始めた。 
ただこの「大きな価値」は曲者である。建前的な志向(大きな価値)と身近な便益が必ずしも合致しない。また時として この大きな価値は都合よく使い分けられる。
「大きな価値」へのアプローチ


マーケティングに関わる人間とって この「大きな価値」に対する考えを深めることは、これからの時代にとって欠かせない要件になる。個人/企業の便益と (例えば)「社会貢献というような大きな価値」をどう調和させるか。そのためにするべきことは何か、という思考。
この「大きな価値」に対する関わり方・アプローチについて、コトラーは自著「マーケティング3.0」でマズローの欲求段階説を取り上げて解説している。
マズローは、人間の欲求(ニーズ)には階層があり、ベーシックなものから順に生理的欲求→安全欲求→社会的欲求→自我欲求→自己実現欲求という5段階の欲求があるとした。
そして人は一番ベーシックで根源的な欲求から順にそれを満たそうとし、それが満たされれば次の段階の欲求に移行し またそれを満たそうとする。これが「マズローの欲求の5段階説」である。
確かに日々の生活の安全が確保されていないレベルで、上位の欲求(社会貢献や自己実現など)があるかと言われれば、まず下位の欲求の優先順位は高い。
ただいかに貧しくとも、高次の欲求である社会への貢献や自己実現のことを第一に考えて行動する人もいる。また、現在のように生活が物質的に充足されていれば、いきなり高次の欲求から始まるケースもある。
特にソーシャルメディアが発達した現在は、生活者同士が簡単にネットで繋がることができ、任意のコミュニティを形成しやすいため、高次の価値観(「大きな価値」)を共有しやすい環境であるという。
またこのソーシャルメディアは、企業のマーケティングツールとしても有効に機能し始めている。
例えば、ソフトバンクの孫社長がTwitterで直接生活者に語りかけることによって、生活者は企業(社会)との繋がりをリアルに実感できる。
こういったことが企業に対する親和性を高め、建前になりがちな「大きな価値」の訴求の担保にもなる。
混迷の時代に、企業はこの「大きな価値」を標榜するのであるならばメディアをうまく選択し利用するべきである。そしてこのような「大きな価値」をコミュニケートすることで日本人たちの信頼を取り戻し、彼らに活力を与えてほしいものだ。
当然マーケター/リサーチャーは、これをサポートする義務がある。
追記:


当原稿を書いた後、大震災が日本を襲った。
大震災で被災された方々、また関係者の皆様には謹んでお見舞い申し上げます。
振り返ればすでに大きな無力感が支配していた日本社会に、大震災が、そして原発トラブルが追い討ちをかけた感がある。
むしろこういう危機的状況だからこそ、企業やマーケターがこの大災害に萎縮することなく「大きな価値」をコミュニケートし、日本を元気付けていく使命がある。
また今次の災害ではネットが、とりわけTwitterが大きな役割を果たしたようだ。
Twitterは単にチャットの道具としてではなく、電話が通じない中で被災地の安否確認などに有効なリアルタイムツールとして機能し、また情報を共有や善意の支援運動の広がりに大きく寄与した。
ソーシャルメディアが新たな価値(役割)を顕在化せ、情報の流通構造の変化が今後一気に加速していくことを予感させる。