株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 牛堂雅文

今さらですが、WEB調査について


たまにしか連載がない「リサーチ道場」ですが、今回は改めてWEB調査について考えたいと思います。
先日JMRAで更新された調査市場の海外動向においても、売上げベースで見た日本のWEB調査比率は36%と諸外国に比べて高く、弊社でも日常的にWEB調査が実施されています。 
(参考:GLOBAL MARKETING RESEARCH LANDSCAPE-ESOMAR INDUSTRY REPORT 2010 -)
そして、近年は海外パネル増強のニュースもよく耳にします。日本以外で調査を行いやすいこともWEB調査の大きな利点と言えます。
「WEB調査には代表性があるのか?」
この問いは、1990年代後半にWEB調査が誕生したときから言われ続け、YESとは言い切れないままですが、実際にはWEB調査の普及が進んでおり、既に慣れ親しんだ調査となっています。
(※この問題については、近年では2009年3月に発表された「信頼できるインターネット調査法の確立に向けて」(東京大学 社会科学研究所)という研究で、WEB調査と訪問調査、郵送調査など伝統的調査との比較がなされていますので、詳しくはそちらをご覧頂けますと幸いです。)
しかし、今回の記事の主旨はそこにはありません。
WEB調査の最大のリスク


「なりすまし」「ポイントゲッター」など、WEB調査のリスクについて色々論じられたこともありましたが、私が最も危惧しているのは以下の点となります。
最も恐ろしいこととは、「どんなとんでもない質問をしても、それっぽい数字が出てしまう」という点に尽きるのではないでしょうか。
「そんなことは従来型の定量調査でも同じではないか?」と感じられるかもしれません。しかし、WEB調査では「回答漏れ」が認められない「必須回答」の場合、強制的に何かを回答せざるを得なくなります。
従来型の紙の調査であれば、回答不能(無回答)なり、調査員経由でフィードバック頂くなりして、「聴き方に問題があった」あるいは「仮説の詰めが甘かった」「市場・ユーザーに対する理解が浅かった」といったことが分かってきます。
そこで「この質問はあまり的確ではなかった」ということが分かりますが、WEB調査にはそのフィードバックがありません。(「その他」回答への過信は危険です。)
対象者は、「意味不明な質問である」または「本質的なことが抜けている」と思っていても、何か回答しないと先に進めないため、無理にでも回答してしまいます。
WEB調査では、そのジレンマの部分や、仕方なく回答したプロセスが見えないため、例え問題のある質問であっても調査結果を見ると実にきれいな数字が上がってきてしまいます。もし、その「仕方なく答えられた回答」の結果から戦略を考えているとしたらどうでしょうか?どうにも恐ろしい気がしてしまいます。
どうすればいいのか?


簡単に言ってしまうと「フィードバックがあればいい」わけですから、対策は「対象者に近いと思われる人にプリテストを実施する」に尽きます。(「プリテスト」は調査実施前に誰かに実際に回答してもらう事を指します。)当たり前といえば、当たり前の対策です。
とはいえ、現実には調査票確定前のバタバタしたタイミングで、画面作成の担当者からもせっつかれ、そんな状況でプリテストも何もあったものではない…かもしれません。クライアントサイドも我々も事情は同じで、現実は時に非情です。
何らかのアクシデントがあり、深夜まで調査票を修正する羽目になった悪夢がよみがえった方もいらっしゃるかもしれません。
では、そういった修羅場の時期ではなく、もう少し前の段階に戻ってみましょう。(ここからは私個人のやり方になってしまいますが、おつきあい頂けますと幸いです。)
これもシンプルかつ、実行されている方も多いかもしれませんが、私は仮説を立てる段階や、調査票を作り始めた初期段階で、対象層に近そうな方に意見を聞いてしまっています。
聞かれる方も数問分であればそう時間を取られないので、割と協力してくれるものです。
特に「気がつかなかった落とし穴」や、「違う意図に解釈されてしまう表現」をここで拾って置くわけです。    
もちろん、聴くのはキモになりそうな部分だけとなりますが、そこに致命傷がない事こそが重要です。
また、全く別の方法論として、配信を小出しにして初期の回答(初票)を確認するという方法もあります。あくまで最初の反応を探るものではありますが、「プリテスト」的と言えるかもしれません。
調査票作成の心がけ


ここまでは割と具体的な話でしたが、調査票のクオリティを上げるには、「心がけ」も重要となります。これもWEB調査以外にも共通する話ですが、フィードバックがないWEB調査だからこそ重要性が増すように思えます。
まず、調査票作成時、作成者はその分野について色々勉強して知識レベルが上がっているはずです。
しかし、「対象者はそうではない」という前提に立ち、「対象条件に当てはまる中で最も初心者でも本当に分かるのか?」「つまずいたり勘違いしたりしそうなポイントはどこか?」という観点で見直してみることも必要でしょう。
「小学5年生でも分かるように」と表現されることもありますが、戒めの表現として誇張している節もありますので、対象条件内の「初心者・経験が浅い人・理解度が低い人」と置き換えた方が現実的です。(分野によっては下手な大人より小学生の方が優秀かもしれませんよ。)
MECE(ミッシー)という発想
※ Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive


また、ロジカルシンキングで使われるMECE(ミッシー:漏れなくダブりなく)という発想で調査票を見てみることも重要でしょう。(なお、リサーチではダブりが多少あるのは大目に見ています。)
例えば購買理由に関しては、「商品」の機能的ベネフィット、情緒的ベネフィット、「価格面」、「プロモーション」、「流通」など、色々な要素があります。「競合」や「自社ブランドの好意度・イメージ」まで含めると、視点はもっと広がります。
別の角度では、AIDMAの法則に代表されるような、認知、理解、来店、比較、購買といった購買のフロー(時系列的な流れ)で捉えて、一連のフローが質問に反映されているかを確認することも有効です。
なお、個人的にはAIDMAでも、AISASでも、購買の流れを捉えればいい話ですので大局的には同じものと考えています。
クオリティアップに貢献する定性調査


そして、WEB調査での聞き漏らしを防ぐのに最も有効なのは、事前にグループインタビューなど定性調査を実施し、仮説を広く収集することでしょう。(これも目新しい話ではないかもしれませんが。)
調査会社としては強くオススメしたいところですが、現実にはそうと分かっていてもスケジュールや予算の都合で実施できないことも多いかと思います。
しかし、知り合い数人で、そのテーマについて座談会といいますかブレストをするだけでも新たな視点が得られ、その結果、調査票は違ったものになってきます。予算等ご都合に応じてご検討下さい。
聞き漏らしがなければ完璧か?


ここまで、「いかにWEB調査で聞き漏らしによる致命傷がないようにするか?」という話をしてきましたが、漏れのないことを重視しすぎるとまた別の問題が発生します。
それは、質問数や選択肢が多くなりすぎてしまい、対象者の注意力が散漫となり、目に見えにくい回答の質の低下を招くことです。
調査票の後半に自由回答があると回答の質の低下に気がつきやすいのですが、そうでない場合はどのように回答の質が落ちたかのかすら見当が付きません。
ローデータで極端な連続回答(3という回答が延々と続くなど)があれば、有効サンプルから省くことも可能ですが、ランダムに押された場合はきちんとした回答と見分けが付かないのでやっかいです。
まずは調査課題、そして実際の質問に対して優先順位を付け、調査票作成・検討の時点でカットできる質問の目処を付けることも必要でしょう。
最後に


一つ一つのことは別段目新しい話ではありませんし、市場調査が始まって以来言われている話かもしれません。しかし、WEB調査では「とんでもない質問でも、それっぽい数字が出てしまう」というリスクが高いことを肝に銘じつつ、日々接していくことが大事ではないかと考えています。
ここまで色々述べてきましたが、WEB調査の早さ、低価格といったメリットは捨てがたいものですし、WEB調査の代表性について論ずるよりも、既に「どうすればより有効に使えるのか?」を考える時代だと認識しています。
アメリカなど海外からは、MROC(market research online community)といったオンライン定性調査の話も聞こえてきます。
弊社でも、2011年より他社のモニターパネルとの接続によりパネルを強化し、およそ150万サンプルにリーチ可能な体制に整備を行っています。
伝統的手法と異なりフィードバックのないWEB調査ではありますが、諸々留意した上で、有意義に活用したいものです。