株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
代表取締役社長 澁野 一彦

後顧(こうこ)の憂い


調査業界でここ4~5年のネット調査の伸長は著しい。JMRA(マーケティング・リサーチ協会)の発表では09年ネット調査が全調査の4割を占めるまでに拡大しているという。ただこれにより従来からの調査のパラダイムが大きく変化し、リサーチはとにかく低価格でクィックにという傾向が顕著になってきている。
それに伴いクライアントにおける調査の取り扱い方/位置づけも若干変わり、コストも手間もかかるけど腰を据えてじっくり分析をやろう という案件はかなり減ってきているように感じる。
低コストでクイックにという "時代の趨勢"をとやかく言うつもりはないし、ネット調査でも高度な分析を伴うプロジェクトもあるが、もしマーケティング調査の中身までもが"軽薄化"しているのだとしたらそれは憂うべき問題である。
生活者(の現場)を理解しない調査設計は表面的になり、仮説のない集計プランはステレオタイプの分析に陥り、通り一編で当たり前の結論しか出せない。
意思決定ツールとして利用すべき調査を 本来的な手続き(調査課題の明確化、仮説の作成、調査設計の吟味等)をスルーして実施するリスクを言うべくもない。
今調査の実施に当たって、余りにも効率重視の業務運営を志向する余り(調査会社の経営陣の問題でもあるが) "事前の吟味"の少ない調査(設計)が罷り通っている気がする。
昔の話をして恐縮だが、例えばエリアマーケティングの商品開発の調査など顧客と一緒にまず現地(地方)に飛び街を観察、現地の人や店の人にヒヤリングを実施し、一緒に仮説作りに悩み、より深い分析をしたいが為に設計の改訂をしたものである。
最近調査も盛んにROI(コスト効率)の必要性を言われているが、「有益な情報」を得るために本来やるべきことを逸脱した業務の効率化は有り得ないといえよう。
フィールドワークのすすめ⇒課題の理解を深めるために まず街(現場)に出よう


そこで原点に戻って(こんな時代だからこそ)「フィールドワークのすすめ」である。
最近弊社でもネット調査の件数の増加とともに、一方でエスノグラフィー店頭の行動観察など生活者と直に向き合う調査が増えている。これは生活者の価値が多様化し、生活者自体が捉えにくくなっている現実とともに、調査業務の標準化・効率化を志向する余り、現場が見えなくなってきたことに対するアンチテーゼともいえよう。
ここでいうフィールドワークは上記のような定型化した調査手法だけでなく、対象者と直に向き合うCLTや訪問調査のフィールドワークの現場、また仮説設定・補強のためにリサーチャー個人が行う街頭観察まで含めた広い意味でのフィールドワークを指す。
リサーチャーは自らフィールドワークを実施することで、リサーチャーとしての知見や見識を蓄積でき、情報に対峙する視点を鍛えることができる。
《フィールドワーク(を自ら実施すること)のメリット》
(1)生活者の"現在進行している"ニーズや価値の変化の現場に立ち会える
  ⇒既知の事実の確認ともに、これから起こる新たな気づき(兆し)がある。
(2)現場の具体例を仮説情報・調査設計にフィードバックできる
  ⇒自らの仮説のフレームの是非を確認でき修正できる。
  ⇒重層的な調査設計を作る事が出来る
(3)連続した情報に文脈をつくることができる
  ⇒情報の関係性を理解し、ストーリー化する
  ⇒情報、データの見方を示唆する
「ぼくは以前から、現場のディテールこそが何よりも重要なのだという言葉を格言にしています」(ホームズの推理より)。これは名探偵シャローック・ホームズの言葉(実際はコナン・ドイル)であるが、彼はこの格言に則り、現場の細かい事実を紡ぎ合わせ難事件を解決していく。
現場は常に具体的で、豊かなディテールの宝庫である。また現場は、自ら作った仮説を補強してくれ、また新たな発想を呈示してくれる。
若きリサーチャー(顧客の商品開発マン、マーケター、またリサーチ会社の担当など調査に関わるスタッフすべて)は、効率だけを追求するのではなく、常に自らがフィールドワークに関わるという姿勢と その具体的な方法論を身に着けて 調査に対峙して欲しいものである。