株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 大阪事務所 マネージャー 上田 牧人

はじめに


かのビル・ゲイツ氏が「21世紀のマイクロソフトの基本戦略はベイズテクノロジーだ」と述べたのは2001年のことです。ここ10年の間にベイズ理論は注目され、発展して、さまざまな分野で利用されるようになりました。
ただ、研究者や情報工学に携わる人たちを別にして、一般のマーケターからはまだ「ありがたそうだけど敷居の高いもの」と受け取られているのではないでしょうか。
思いっきり平たく乱暴に砕いてみたらどう言えるだろうか、というのが拙稿のテーマです。
ベイズ統計の誕生


ベイズ統計は250年も前にイギリスのアマチュア数学者だったベイズさんが発案し、彼の死後世の中に提出されました。
ところが、当時主流を形成しつつあった頻度論的推計学派から異端とみなされ、長く封印されてきました。いかに発想がおもしろくても厳密さに欠けるというのがその理由でした。今から思えば、ちょっとした視点の違いからくる近親憎悪と見えなくもないのですが。
ベイズ統計が扱うのは主観確率です。漠然と想定していた主観が情報を得るごとに更新され確信に高まっていく様子を確率で追跡し、予測していこうということです。これって普段私たちが個々の局面で意思決定し、業務を前に進めていくやり方と同じではないですか?例え話で述べて見ます。
ベイズ統計とは? ~例え話から~


新人マーケターのAさんが新製品アイデアを思いついて企画書にまとめ、上司のBさんにおうかがいを立てました。
上司Bさん:「おもしろい企画だと思うけど、アイデアレベルでは一般に新製品として成功するのは5品に1品程度だからね。一度プロトタイプを作ってグループインタビューにかけてみたら?」
Aさんは苦労してプロトタイプを作り、調査会社に頼んでグループインタビューを実施しました。
結果は上々でした。グループインタビューの現場に上司のBさんも立会いました。
上司Bさん:「うん、手ごたえ良いね。でもまだ成功確率50%ってとこかな。商品としての体裁を整えて定量調査にかけてみよう。」
Aさんは石橋を叩いて渡るような上司の物言いにちょっと不満でしたが、頑張ってCLT(会場調査)を実施しました。
調査会社からの報告書も◎がつく結果で、Aさん意気揚々です。
上司Bさん:「よし、今度は小規模販売テストに進もう。製造設備を投資するにはまだリスクがあるからね。」
社長賞もののヒット商品が実現するのは、もう少し先のようです。
 
上司Bさんの頭のなかは多分下図のような感じでしょう。
ベイズ説明図.png
 ① これまでの経験から成功確率は低いと想定した
 ② グループインタビューから成否半々程度と見直した
 ③ 定量調査で成功見込に傾き、その確信度(山の高さ)も高まった

Aさんには逐次更新されていく上司Bさんの頭のなかは見えません。ただ、ベテラン開発マンとしていくつものヒット商品を世に出したBさんの判断を全幅で信頼しています。
ベイズ統計は、人の主観を積極的に採用し「暗黙知」だったものを目にみえる「形式知」に変える方法だ、という言い方をすることもできます。こうした不確実な現象と格闘するには伝統的統計手法は不向きでした。
次回は伝統的統計手法がどうして行き詰ったのかを考えてみましょう。