産業革命期に繰り返し聞かれたのは、製造業者の次の言葉であった。
『これは私が作りました。買っていただけませんか?』。
これに対して、情報化時代の到来を告げるのは、消費者の次のような言葉である。
『これが私の欲しいものです。つくってくれませんか?』

レスター・ワンダーマン

現代は第四の情報革命の時代といわれています。
第一は紀元前4000年頃のメソポタミア文明における文字の発明。第二は中国で紀元前1300年頃、ギリシアで紀元前500年頃におこった書籍の発明。第三は15世紀半ばの活版印刷による書籍の発明。これらは人類の発展の契機となっていることはもちろん、たとえば活版印刷の発明などは、聖書が一般大衆にもいきわたることで宗教革命の要因になったり、教育も、産業革命の広がりも、この情報革命があってこそです。
つまり、情報革命というのは、人の価値観、ひいては行動、そして産業等に大きな変化を起こし、それまでの社会で不動の地位を築いていた教会、政治、産業などを壊し、新たな社会が生み出されていきました。

この第四の情報革命はどうでしょうか?
これまでの情報革命と同様、技術の誕生から浸透、一般化、そして人々の価値感の変化までにはそれなりの時間がかかりました。
しかし、ここまで高度な情報化の進展は、そのスピードすら比べ物にならなくなっています。

ここで「マーケティング」に焦点を戻しましょう。

企業にとって、マーケティングは「顧客」が全ての原点であり、欠かせないものです。

では、顧客の価値感や文化が異なる場合、同じマーケティング手法が通用するのか?
答えは「否」でしょう。日本で通用するマーケティング手法が、欧米や中国、インドネシアやカンボジアなどで通用するとは限らない。それは多くの方が賛同するでしょう。

では、2000年の日本人と2010年の日本人は、同じ価値観、同じ文化、同じ消費行動をしているのでしょうか?

この問いかけに対して、筆者は「否」と答えます。そして、「ケータイ」「SNS」この2つの浸透によって、世代の差こそあれ、大きな消費の変化が生じていると考えます。ドラッカーの言葉を借りれば、現代の大きな変化は「すでに起こった未来」であり、過去の価値感が何の役にも立たなくなっていく(というより、実は既になっている)時代とも言えるでしょう。
少なくとも、20世紀の「流行」はマスメディアが作りだしていたものがほとんどでしたが、昨今の「流行」には、マスメディアは付いて行くのがやっとという状況です。
というより、すでに世代や性別を超えた流行などほとんどなく、価値感も文化は非常に多元化しています。その要因としてケータイとSNS(やBlog・TwitterなどのCGM)の存在があるのは否定できません。

このコーナーは、「モバイルマーケティング」がテーマではありますが、これまでのマーケティング観を変えずにモバイルを活用してもうまくいくわけがないと言う観点から、この「モバイルが大きく浸透した世代・時代」である「mジェネレーション」の分析と対策を中心に、「モバイル時代のマーケティング」というテーマで書いていきたいと思います。

今後10年のうちに、マーケティングは徹底的な手直しを受けるだろう。市場はめまぐるしく変化し、ハイパーコンペティションの様相を呈している。

P.コトラー

やはりコトラーもドラッカーも、ワンダーマンもすごい方々だったと改めて思います。今のこの状況を10年以上前に予測していたような示唆を多く残しています。

しかし、日本でマーケティングに関わる人たちは幸せです。ガラパゴスといわれながらも、世界で最も「ケータイインターネット」による消費者の変化を体感できる市場であり、現在のこの状況はコトラーもドラッカーもワンダーマンも体感していないのです。
つまり、もっとも「進化してしまった消費者」を相手に、成功法則、成功手法を編み出した企業こそ、世界に通用するマーケティング企業になりえるのです。コカコーラもマクドナルドも、日本でモバイルマーケティングを実践し、大きな効果をあげながら、世界規模で共有をはかっています。

これまでの実績に依存し、変化に気付かず、気付いても冒険をしないままで、大きな効果はあがらないのは自明の理です。世の中を変えるのは坂本龍馬のようにそれまでの価値感に安住せず、熱意をもって冒険できる人間だけです。

マーケターとして採用するのは、人生に熱中できる人間に限るべきだ。そうでない者は経理に回すべきである。

P.コトラー

次回から、モバイルの重要性、そしてモバイルで消費者がどう変化したのか、少しずつ書いていきたいと思います。読者の方からのご質問なども大歓迎です。
あまりにも書くことが多すぎてどこから触れていくのがよいのか著者1人では迷いますので……。

吉田 謙
株式会社シトラスブレインズ 代表
http://www.citrus-brains.com/
東京大学法学部卒。1998年NTT(のちNTT東日本)入社。
新規顧客開拓の専門チームで、インターネット活用の新規提案や事業提案を担当。学校法人の新規事業コンサルティングや保育園へのネットカメラ導入、政令指定都市への制作提言書策定など特殊案件を担当。
のち「Flet’sシリーズ」マーケティング部門にて販促施策・Webサイト担当。2002年20人規模のベンチャー企業に入社し、大企業向けWeb/モバイルサイト構築事業・ソフトウェア事業を立上げ、のち営業・技術部門を統括。通信キャリアや放送事業者、外資系製薬企業など大規模サイトの構築に多数携わる。
2006年に100人を超える規模まで成長した同社から独立。シトラスブレインズを設立。先進技術とマーケティングの両面に基づくコンサルティング・プロデュース事業を、多数のベンチャー企業・技術者とのパートナーシップにより展開。特にマーケティング戦略と組織、システム全体の最適化や、先進技術の組み合わせによるコストパフォーマンスに優れたサイト・システム構築を得意とする。2010年より製品事業に進出。
著書「モバイルマーケティングを活性化する 企業携帯サイトの構築」(秀和システム・2章、4章、5章を担当)、他にWeb/携帯分野での雑誌への寄稿・講演など。3児の父・兼業主夫。